大動脈弁狭窄症に対して大動脈弁置換術を行った19人の対象について術前から術後1年目までの経時的な採血を行った(6か月目までのものは21人)。典型的な経過をたどった3人の対象の術前、術後3か月目の検体を用いて、マイクロRNAの網羅的解析を行った。13個の有意変化を起こすマイクロRNAが検出された。その中の5個についてその他の患者検体でPCRを行い半定量評価を行った。1つのマイクロRNAが網羅的解析と同様の変化を示しており、大動脈弁置換術による血行動態の変化に関連したマイクロRNAと同定した。その一つ(マイクロRNA-X)を用いて以下の実験を行った。 同定したマイクロRNAーXを高カルシウム培養環境に置いた血管平滑筋細胞に添加した。すると、マイクロRNA-X添加で石灰化が抑えられることが確認できた。次に、マイクロRNAの標的遺伝子の予測プログラムである[Target scan]を用いてターゲット蛋白質を決定した。対象のマイクロRNAを血管平滑筋に添加すると、ターゲット蛋白質の発現が抑えられることを確認した。またターゲット蛋白質のインヒビターを添加して石灰化環境での血管平滑筋の培養を行うことで石灰化に変化が起こることも確認した。そのほかの同定されたマイクロRNAについて今後はその機能解析を行う予定である。 本研究の当初の目的は、エクソソームに内在するマイクロRNAが全身に与える影響を解明する事であったが、これらの実験は現在も進行中であり、本研究期間では終了できなかったため、継続して解明を目指す。 患者から得られた残余検体はまだ十分にあり、エクソソームの抽出、PCRでの解析を続けていく。さらに、遺伝子組み換え実験も加えて、マイクロRNAと蛋白質の分子間の関係も解析していく。
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