研究課題
小児期の手術成績の向上のため近年急増する成人先天性心疾患患者において、成人早期の心不全・不整脈続発が喫緊の問題となっており、手術に伴う心臓分布神経の切断など、成人発症の心疾患とは異なる視点からの病態解明が必要である。本研究は、幼齢期に各種支配自律神経へ介入や操作を行った際の、細胞成長や炎症への影響、心筋障害引き起こす可能性のある変化を解析することを目的としている。交感神経・副交感神経・感覚神経を物理的に、遺伝学的に自在に操作(除去・刺激他)する技術(心臓神経操作ラットやベクター)を用いて前述の問いに対する解析を行っている。左右心室に限定した支配神経の全除神経(交感神経、副交感神経、求心性神経)モデルでは、心室神経操作後4週間の時点で、心筋菲薄化・心拡大、心外膜側を中心とした心筋の繊維化、心筋繊維化領域に一致する、神経の再支配とともに増加した交感神経線維と周囲の細胞浸潤、外膜側に優位な心筋細胞増殖の減少が観察された。心臓神経の切断・再支配過程が、周囲の心筋構成細胞・組織に影響を及ぼす像が示唆された。昨年度から使用している交感神経刺激アデノウイルス随伴ベクター(AAV-TH-NaChBacG229A-2A-turboRFP)で、モデルは異なるがヒト乳がん細胞株MDA-MB-231の異種移植を行ったモデルで、上記ベクターを経腫瘍投与を行うと、腫瘍拡大や転移が促進される現象を観察し解析した。一方、交感神経除去ベクター(AAV-TH-DTA)を投与すると、腫瘍拡大や転移は著明に抑制された。組織像の観察で、交感神経が細胞増殖や周囲の免疫応答へ修飾を行う像を見ていることが示唆された。
3: やや遅れている
神経遺伝子操作技術の実行可能性を確認することで、臨床上の問いに対する解析が可能であることが判明し、解析を開始している。心室筋構成細胞に対しては交感神経の影響が大きいと予想し、まずは交感神経の操作と解析を行い、主に組織変化の観察を行った。しかし、神経操作に伴う心筋性状や機能変化は微細であり個体差が大きい印象を受けた。モデルを簡略化する必要があると考え、方針を転換している。昨年度は研究指導者の異動、研究環境の変化、所属研究所の移転と、動物の管理を含め、環境整備の再設定に多大な労力を要した。動物実験が全く施行できない時期・時間帯も多く、やむを得ず本テーマと関連する臨床研究などを平行した。
組織解析においては、線維芽細胞、血管内皮細胞、自然免疫系(マクロファージ、樹状細胞など)の応答が推察された。自律神経への操作がこれらの細胞群へ及ぼす影響を既存の報告を参考にし解析を行っていく。これまでの結果から、自律神経系への介入・修飾は、細胞増殖シグナルや免疫系・炎症カスケードへ影響を及ぼす可能性が高いと推察されたため、よりモデルを単純化させ、その現象の生理学的な特徴や機序へ迫りたい。
2018年度に研究協力・指導を行う共同研究者の異動があり、実験系や試薬、機具の他施設への移動があった。また2019年度に自施設の移転があり、再び実験機器などの移動を行った。各々に伴う実験系の再構築や機具の再設定に多大なエフォートを要した。論文投稿と並行しながら研究再開は2019年度の後半となった。結果を確認しながら研究計画の見直しも必要と考えられたため、2020年度にずれ込む見通しとなった。そのため、補助事業期間延長承認申請を行い、承認された。
すべて 2019
すべて 雑誌論文 (10件) (うち査読あり 10件) 学会発表 (1件)
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