小児期の手術成績の向上のため近年急増する成人先天性心疾患患者において、成人早期の心不全・不整脈続発が喫緊の問題となっており、手術に伴う心臓分布神経の切断など、成人発症の心疾患とは異なる視点からの病態解明が必要である。本研究は、支配神経へ介入や操作を行った際の、組織障害や炎症への影響を解析することを目的としている。 左右心室に限定した支配神経の全除神経モデルにおいて経時的に組織変化を観察した。結果、術後12週間に心筋菲薄化・心拡大、心外膜側や血管周囲の繊維化、心筋繊維化領域に一致する、神経の再支配とともに増加した交感神経線維と周囲の細胞浸潤が観察された。心臓神経の切断や障害および再支配過程が、周囲の心筋構成細胞・組織に影響を及ぼす像が示唆された。ここには一時的な心機能低下に伴う代償性の交感神経系の賦活化が交絡しているものと思われたが、少なくとも臨床で問題となる病理の一部であると考えられた。 その他、神経系と血管内皮細胞、炎症細胞との連関について解析範囲を広げて研究を行った。例えば骨格筋における組織再生については、神経系の関与は小さいことが示唆され、除神経操作の有無によらず血管再生や増生の速度は同等と思われた。一方、組織再生においてはマクロファージを中心とした炎症系細胞が主役を担うことが示唆される観察を得た。いずれも神経系とのクロストークを同定することはできなかったが、組織再生の促進を考察する上で、炎症系細胞に対する解析を深めることで治療応用への手がかりが掴めるのではないかと考えた。 神経トーンの変化する例えば心臓周術期において神経系の心筋リモデリングへの関与が再確認された。また侵襲に対する応答には炎症細胞の関与が重要と考えられ、治療介入を考える上で示唆を与えるものと考える。
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