本研究期間において、低酸素応答により発現が誘導されるGalectin-3を介し、肺がん細胞の浸潤の機序と臨床学的意義を明らかにすることを目的とした。肺がん細胞におけるGalectin-3の発現をshRNA遺伝子導入により抑制すると、低酸素で誘導される遊走能・浸潤能の有意な抑制が認められた。外因性のGalectin-3を添加しても、抑制された遊走能の改善は認められず、細胞外へ分泌されたGalectin-3ではなく、細胞内のGalectin-3が遊走能に関与していることが示唆された。細胞内のGalectin-3が低酸素応答によりどのように肺がん細胞の遊走・浸潤に関与しているかを明らかにするために、細胞運動の促進に関わる低分子G蛋白であるRhoAに着目した。肺がん細胞の細胞膜において、低酸素刺激により、Galectin-3とるRhoAの発現は共に増強し、活性型RhoAの発現と相関していることを示した。一方で、肺がん細胞におけるGalectin-3の発現を抑制すると、低酸素刺激による細胞膜のRhoAの発現は減少し、活性型RhoAの発現も低下が認められた。これらの結果より、低酸素で誘導される肺がん細胞内のGalectin-3は、RhoAを細胞膜へ固定または移動させることにより、RhoAを活性化し、遊走能・浸潤能の促進に関与している可能性が示唆された。これらの検証するために、非小細胞肺がんの手術組織検体を用いて、Galectin-3の免疫組織化学染色を行い、術後再発や臨床病理学的因子との関連性を評価した。その結果、腫瘍細胞におけるGalectin-3の発現は、脈管浸潤と関連し、高発現群では、低発現群と比較して、術後無再発生存率の有意な低下を認めた。多変量解析では、腫瘍細胞におけるGalectin-3の発現は、独立した術後再発予測因子であった。
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