研究課題/領域番号 |
18K16416
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
中島 大輔 京都大学, 医学研究科, 講師 (50812286)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2022-03-31
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キーワード | 体外肺灌流保存 / EVLP / 肺移植 / 心停止ドナー / 肝細胞増殖因子 / HGF / 虚血再灌流障害 |
研究実績の概要 |
近年、体外肺灌流保存(Ex Vivo Lung Perfusion:EVLP)がマージナルドナー肺の移植前治療のプラットフォームとして有効であることが動物実験にて証明されており、体外でのドナー肺のテーラーメイド治療に注目が集まっている。肝細胞増殖因子(hepatocyte growth factor:HGF)は抗アポトーシス作用、血管増生、抗炎症作用、免疫調節作用などを有する多機能性因子であり、虚血により障害を受けたドナー肺を移植前に修復する、もしくは移植後の虚血再灌流傷害を予防しうる最重要な因子になりうる。本研究は前臨床研究として、京都大学で既に確立しているラットやビーグル犬の心停止ドナー肺移植モデルとEVLP装置を用い、HGFの虚血再灌流障害に対する有効性を検討する。 小動物での心停止ドナー肺に対するEVLPを確立した。実験はルイスラット雄300-400 gを使用し行った。心室細動にて心停止を導入し、心停止90分後に両肺ブロックを摘出。以後、isolated rat lung perfusion modelを用い、60分間のEVLPを安定して施行できる設定を確認した。灌流液としてSTEEN solutionを用い、流量10-11 ml/min、chamber pressure -8, -4 cmH2O、respiratory rate 60/minの設定でEVLPを行なった。EVLP中の肺生理データはいずれも安定していた。 大動物でのEVLPを確立した。EVLP回路を作成後、ビーグル犬(12.6-14.5 kg)を用い、トロント大学のプトロコールを基に、常温(37度)での換気、灌流保存を8時間行った。ドナー肺は肺水腫をきたすことなく、EVLP中の肺生理データ(気道内圧、肺コンプライアンス、肺血管抵抗)は8時間安定していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
小動物実験において、既に心停止ドナーモデルが確立され、また心停止ドナー肺に対するEVLPシステムも確立された。また大動物でのEVLP装置・プロトコールも確立された。今後、この障害モデルとEVLPシステムを用い、肺移植を行ったのちに、コントロール群と比較することにより、HGFの有効性を検討することができる。
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今後の研究の推進方策 |
ラット心停止ドナー肺に対する肝細胞増殖因子(HGF)の有効性の検討:心室細動にて心停止を導入し、120分間室温にて安置した後、ラットドナー肺を臓器保存液でフラッシュし摘出。その後、ラット肺体外灌流装置と灌流液にSteen solutionを用い、4時間のEVLP を行う。ラットドナー肺は、無治療群とHGFによる治療群(高投与量と低投与量)の3群に分ける(各群、n = 6)。治療群では、灌流液中に低量(50μg/kg)もしくは高量(500μg/kg)のrecombinant human HGFを投与する。投与量は私がトロント大学総合病院研究施設にて得たデータと、以前の参考文献をもとに設定している。その後、左肺をレシピエントのラットに移植し、2時間の再灌流評価を行う。 ビーグル犬心停止ドナー肺に対するHGFの有効性の検討:心停止3時間後、ビーグル犬ドナー肺を臓器保存液にてフラッシュし、心肺ブロックを摘出。ドナー肺を冷保存(4℃)10時間後に、無治療群(n = 3)もしくはHGFによる治療群(n = 3)の2群に無作為に分け、EVLPを4-6時間行う。治療群では、灌流液中にrecombinant human HGFを投与する。投与量は、上記の小動物実験にて得たデータをもとに決定する。EVLPは京都大学でも既に確立しているトロントプロトコールに従い行う。EVLP後、レシピエント犬に左片肺移植を行い、4時間の再潅流評価を行う。
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