研究課題/領域番号 |
18K16417
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
福井 絵里子 大阪大学, 医学部附属病院, 医員 (90814591)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 脂肪組織由来幹細胞 / 慢性閉塞性肺疾患 / 細胞移植治療 / 肺胞上皮細胞 / 肺再生 |
研究実績の概要 |
幹細胞を用いた再生医療の研究は世界中で盛んに行われており、様々な分野で臨床応用が実現化してきている。肺に関しても研究が発展してきているとは言え、他臓器と比較してまだまだ再生は困難であると考えられている。一方、肺気腫を中心とする慢性閉塞性肺疾患(chronic obstructive pulmonary disease ; COPD)は年々増加しており、2030年には世界の全死因の第3位になると予測されている。現在根治的な治療法として肺移植が最も有効であるが、脳死ドナー数は限られており新たな治療法の開発が期待されている。脂肪組織由来幹細胞 (adipose-derived stem cell : ADSCs) を用いた肺再生を目指し、 ADSCs から肺胞上皮細胞への分化誘導、 COPD に対する ADSCs 補充療法による肺再生医療の確立を目的として研究を進めてきた。なかでも、ADSCs の多分化能に注目し Ⅱ型肺胞上皮細胞へ分化可能であることを示した。ADSCs を末梢気道成長培地で培養すると Ⅱ型肺胞上皮細胞のマーカーを認めるようになり、電子顕微鏡で観察すると Ⅱ型肺胞上皮細胞に特異的な lamellar body を認めた。さらに、エラスターゼを用いて肺気腫モデルを作成し、 ADSCs を尾静脈から投与して組織学的な COPD に対する効果を検討したtところ、ADSCc を投与することによって気腫性変化の改善を認めた。また、胸部CTの3D画像では ADSCs 投与による肺の過膨張の抑制を認めた。これらの結果は ADSCs がⅡ型肺胞上皮細胞へ分化できる可能性を示唆し、COPD に対する細胞治療として有効である可能性を示唆せいていると考える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
in vitro で ADSCs がⅡ型肺胞上皮細胞へ分化する可能性を示した。まず末梢気道成長培地培養で培養した ADSCs が Ⅱ型肺胞上皮細胞のマーカーを発現していることをWestern-blotting法(WB) や qPCR で確認した。また、エラスターゼを用いて肺気腫モデルマウスを作成し、 ADSCs の COPD に対する効果を評価したところ、気腫の程度をあらわす平均肺胞壁間距離を測定すると、エラスターゼ投与で有意に拡大し、ADSC 投与で改善を認めた。このように ADSCs をⅡ型肺胞上皮細胞に分化させることができる可能性を示すことができ、肺気腫モデルマウスにおいて気腫性変化を改善させることを示すことができた。さらにこの結果を全国学会で発表した。
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今後の研究の推進方策 |
ADSCsのⅡ型肺胞上皮細胞への分化誘導について、他のプロトコールでも分化可能かを検証し、Ⅱ型肺胞上皮細胞への分化誘導法を確立する。また、肺気腫モデルマウスを用いて ADSCs の効果を呼吸機能の観点から評価する。小動物用のスパイロメトリーや超偏極 129Xe MRI を使用して評価していく。これは吸入させたキセノンガスを励起させ約10万倍に信号強度を高め、それを磁気共鳴イメージングとして捕え肺中のガス分布、肺胞サイズ、拡散割合が計測できるというMRIで、呼吸機能を評価するのに重要なガス交換能を評価することができる。今まで ADSCs の効果を評価する際、組織学的評価が主であり、呼吸機能の改善を詳細に評価した報告はなく意義があると考える。さらに、細胞培養レベルだけでなく、肺気腫モデルマウスに投与した ADSCs がⅡ型肺胞上皮細胞に分化するかを検討する。既報では ADSCs の効果はパラクライン効果が主な効果であり、肺胞上皮細胞へ分化して再生するという可能性は controversial であろ。ADSCs 自身がⅡ型肺胞上皮細胞に分化して機能細胞を再生する効果が見いだせれば、新しいCOPDの治療薬につながる可能性がある。
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