研究課題
近年、胸腺上皮性腫瘍に対して免疫チェックポイント阻害剤の臨床試験が開始されており、その有効性を示唆する結果が報告されているが、胸腺上皮性腫瘍の腫瘍内T細胞の腫瘍免疫応答に関する報告は認めない。胸腺上皮性腫瘍はT細胞の分化・成熟に重要な役割を果たす胸腺上皮に由来し、正常胸腺と類似した機能を持ち、未分化なT細胞、すなわちCD4+CD8+ Double-Positive T(DPT)細胞が多数存在する。胸腺上皮性腫瘍は病理組織学的にWHO分類が広く用いられ、腫瘍細胞の形態と、腫瘍細胞と随伴するDPT細胞の数の比率から組織型が決定される。しかし、癌免疫においてDPT細胞の関与は認めないため、胸腺上皮性腫瘍内のCD4, CD8 Single-Positive T(SPT)細胞に着目しT細胞機能を明らかにすることを目的とした。免疫プロファイリングのクラスター解析の結果、B3胸腺腫および胸腺癌C(B3/C)は免疫チェックポイント分子の発現が高い群に分類された。細胞傷害活性の評価法としてT細胞上のCD3を認識する抗体と腫瘍細胞上の腫瘍抗原の一つであるEphA2を認識する抗体の抗原認識部位を直列に繋げた二重特異性分子を用いて、物理的にT細胞と腫瘍細胞を近接させることで腫瘍内微小環境を模した環境を構築した。この細胞傷害活性の測定法に抗PD-1抗体投与の有無による細胞傷害活性、および活性の補助評価としてIFN-γを産生するCD8SPTの割合をフローサイトメトリーで解析した。B3/Cの腫瘍内T細胞は、B3/C以外の組織型と比較すると抗PD-1抗体を投与することにより細胞傷害活性の有意な亢進が認められ、IFN-γを産生するCD8SPTの割合は有意に亢進した。以上の結果より、胸腺上皮性腫瘍の組織型と腫瘍免疫活性には関連性が認められ、胸腺腫B3および胸腺癌Cでは免疫治療が有効となる可能性が示唆された。
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Scientific Reports
巻: 10 ページ: 4064
10.1038/s41598-020-61053-8.