研究課題/領域番号 |
18K16445
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研究機関 | 滋賀医科大学 |
研究代表者 |
福島 豊 滋賀医科大学, 医学部, 助教 (10422891)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 吸入麻酔薬 / デスフルラン / セボフルラン / 膜電位依存性イオンチャネル / hKv1.5チャネル / 作用機構 / 標的分子 |
研究実績の概要 |
全身麻酔薬はリガンド依存性イオンチャネル、受容体、種々のシグナル分子などの特定のタンパク質(標的分子)に作用して、麻酔作用や全身作用を及ぼすことが明らかにされつつある。これまで、全身麻酔薬がリガンド依存性イオンチャネルであるGABAA受容体チャネルに対して直接作用を及ぼすことはアミノ酸レベルで明らかにされているが、膜電位依存性イオンチャネルに対する作用機構は十分には明らかにされていない。本研究課題では、膜電位依存性イオンチャネルであるhKv1.5チャネルを用いて、吸入麻酔薬の膜電位依存性イオンチャネルの制御に関わる分子機構を解明することを目的としている。 平成30年度は、野生型hKv1.5チャネルと、部位特異的変異導入法を用いて作成したhKv1.5チャネルのチャネルポア領域のアミノ酸の変異体13種類をChinese hamster ovary (CHO)細胞に発現させ、全細胞型パッチクランプ法を用いてデスフルランの作用部位を検討した。デスフルランは野生型hKv1.5チャネルに対し促進性と抑制性の両方の作用を示した。抑制作用に関しては、T480A、V505A、I508A、A509Gの変異体で抑制率に変化を認め、Thr480、Val505、Ile508、Ala509がデスフルランの抑制作用に関わっている作用アミノ酸であると示唆された。さらにコンピュータ上でhKv1.5チャネルのホモロジーモデルとデスフルランのドッキングシミュレーションを行った。ドッキングシミュレーションでもデスフルランはThr479、Thr480、Val505、Ile508、Ala509、Val512の近傍に位置し、パッチクランプ実験の結果を支持した。これらの結果より、デスフルランはhKv1.5チャネルのポア領域に位置する複数のアミノ酸に直接作用して、その抑制作用を発揮していることが明らかとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 部位特異的変異導入法を用いて、hKv1.5チャネルのチャネルポア領域のアミノ酸の変異体13種類(T462C、H463C、T479A、T480A、R487V、A501V、I502A、V505A、I508A、A509G、L510A、V512A、V516A)を作成した。 2. 野生型hKv1.5チャネルとこれらの変異体hKv1.5チャネルをCHO細胞に発現させ、全細胞型パッチクランプ法を用いて電流記録を行い、デスフルランによる修飾作用をWTと比較した。T480A、V505A、I508A、A509Gの変異体でデスフルランによるhKv1.5チャネルへの抑制率に変化を認め、Thr480、Val505、Ile508、Ala509がデスフルランの作用アミノ酸であると示唆された。 3. Molecular Operating Environment(MOE)プログラムを用いて、hKv1.5チャネルと相同性の高いKv1.2チャネルの結晶構造を鋳型に、開口状態のhKv1.5チャネルのhomology modelをコンピュータ上で構築し、それを用いてデスフルランとのドッキングシミュレーションを行った。デスフルランはhKv1.5チャネルのポア領域のアミノ酸である、Thr479、Thr480、Val505、Ile508、Ala509、Val512の近傍に位置するという結果であった。 以上のように、本研究課題はデスフルランの膜電位依存性hKv1.5チャネルの制御に関わる分子機構の解明について重要な情報を得ており、おおむね順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
デスフルランがhKv1.5チャネルのポア領域に位置するアミノ酸に直接作用して抑制作用を発揮することが明らかとなったが、デスフルランは同時にhKv1.5チャネルに対して促進作用を示した。今後はこの促進作用に関しても解析を進める予定である。また、他の吸入麻酔薬においても検討するためにセボフルランを用いて実験を行い、吸入麻酔薬の膜電位依存性イオンチャネルの制御に関わる分子機構の解明を目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
すでに教室にある薬剤や物品を使用した実験を行うことが多かったため、当該年度の使用金額が少なくて済んだ。来年度以降に、当該年度の残金と合わせて、新しく薬剤や物品を購入し、実験を行う予定である。
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