これまでに、SR-KOマウスは、脊髄後角のNMDA受容体を介した興奮性シナプス伝達が増強していること、SR-KOマウスに末梢神経結紮を行うと、機械的アロディニアが有意に増強するが、末梢神経結紮方法(Seltzer法やChung法など)の違いによって、疼痛感受性に対する影響が異なることを明らかにしてきていた。 本年度は、昨年度に引き続き行動学的に観察されたSR-KOマウスの表現型をシナプス伝達レベルで裏付けるための研究を行った。コントロール、SR-KOマウス間で機械的アロディニアに有意差の現れたChung法による末梢神経結紮を行い、結紮から7-14日後のマウス脊髄腰膨大部より350 μmの脊髄切片標本を作成した。そして、脊髄後角表層神経細胞から、ホールセル(全細胞)パッチクランプ法によって興奮性シナプス後電流(EPSCs)を記録した。 コントロールマウスとSR-KOマウスにおいてこれらを比較した結果、SR-KOマウスでは、NMDA-EPSCsの総電流量が増大している傾向性を見出した。SR-KOマウスはコントロールマウスに比べて、神経結紮を行っていない無処置の状態においても総電流量が増大していることをこれまでに明らかにしていたが、今回解析したChung法による結紮を行ったSR-KOマウスと、末梢神経結紮を行っていないSR-KOマウスとを比較すると、神経結紮を施したSR-KOマウスの方が未結紮SR-KOマウスよりも総電流量が大きかった。このことから、Chung法による末梢神経結紮では、亢進しているSR-KOマウスの脊髄後角シナプス伝達が、さらに増大することで機械的アロディニアの増強を誘発させている可能性が高いと考えられる。
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