過分極誘発陽イオンチャネル(HCN1~4)は細胞内cAMPによって電流が増大するという特徴を持ち、痛覚伝導路において重要な機能を果たす。一方我々は、最もcAMP感受性が高いサブタイプであるHCN4を発現するニューロンが、脊髄では後角浅層にのみ特異的に存在することを見出した。 先行論文によると、脊髄におけるHCN4発現ニューロンは抑制性介在ニューロンであるとの報告があった。そこで、このニューロンをchemogeneticに刺激してcAMP濃度を増加させることにより、HCN4チャネルを活性化することを試みた。 そのためにGs-DREADDをテトラサイクリン応答配列の下流に挿入したコンストラクトをAAV9ウイルスベクターにサブクローニングした。このベクターをHCN4翻訳開始点上流にtetracycline transactivatorとその応答配列(TRE)をノックインしたマウス(HCN4+/tTA_TRE)に髄注する計画とした。 一方、GAD67ーGFPノックインマウスや、VGAT-GFP BAC トランスジェニックマウスとHCN4+/tTA_TREを交配して得たdouble transgenic mouseでHCN4抗体を使って、免疫染色をした結果、両者のシグナルはほとんど重ならないことが反面した。すわなちHCN4発現ニューロンは抑制性よりもむしろ興奮性介在ニューロンである可能性が高くなった。そこで上述の仮説とは逆に、HCN4電流を抑制することにより、興奮性シナプス電位の加重が増強される可能性を検討するために、優性抑制性HCN4チャネル優性抑制性変異体をTRE配列下流に挿入したコンストラクトをAAV9ウイルスベクターにサブクローニングした。今後、これらのウイルスベクターを用いて、脊髄後角におけるHCN4を操作することで、痛み行動がどのように変化するか確認する予定である。
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