研究課題/領域番号 |
18K16468
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研究機関 | 三重大学 |
研究代表者 |
中森 裕毅 三重大学, 医学部附属病院, 助教 (80815994)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | POCD / 全身麻酔後認知機能障害 / 術後認知機能障害 / プロテオミクス / プロテオーム / 日本語場CERAD-NAB / iTRAQ / 脳脊髄液 |
研究実績の概要 |
術後認知機能障害(POCD)発症患者は、術後入院期間が長く、長期生存率も低いことが知られている。麻酔薬という比較的短時間の一見可逆的な脳への作用や手術侵襲が、どのようなメカニズムで長期にわたり障害を及ぼすのか不明である。この重要な未決の問いに対し、ヒト脳脊髄液(CSF)という貴重な臨床サンプルを使用し、POCDに関連するCSF内タンパク質総体の量的変動、構造変化を見出すことでPOCDの分子メカニズムに迫った。 まず、血液と比してタンパク濃度が低いCSFにおいて、効率的にプロテオーム解析をする方法を模索した。iTRAQ(isobaric Tags for Relative and Absolute Quantitation;タンパク質発現相対定量解析)に供する前段階において、限外濾過およびabundant proteinsの吸着除去を行うことにより、CSFにおいても確実にiTRAQラベリングを実施する手法を見出し、髄液中タンパク90個あまりを同定することに成功した。また、タンデム質量分析法(MS/MS)以外に蛍光ディファレンスゲル二次元電気泳動(2D-DIGE)アプローチによるCSFプロテオミクス解析も実施した。そのどちらの手法においても十分なラベリング効率が得られ、定量性が検討できることがわかった。 POCDの診断基準自体に確立されたものはなく、我が国の文化的言語的背景を考慮し、近年英語圏およびドイツ語圏で汎用されているCERAD-NAB(Consortium to Establish a Registry for Alzheimer's Disease - Neuropsychological Assessment Battery)の日本語版(CJ-MIE)を作成し、学会において発表し広くその普及を目指した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
CSFのタンパク濃度が低いこと、および脳脊髄液ドレナージカテーテル刺入に伴う微小な血管損傷による血液混入の影響が除外できないことから、CSFのプロテオミクス解析手法の確立に難渋した。 タンパク濃度が低いことに関しては、限外濾過およびabundant proteinsの吸着除去を行うことによりiTRAQAタグ付けと微量タンパクの効率的な検出が可能となった。 血液混入については検体採取毎に個体差が大きく、解析対象となりうる検体は当初の計画よりも少数にとどまっている。
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今後の研究の推進方策 |
臨床検体の収集については倫理委員会の管理の元、適正に行い、検体バンクは順調に構築されているが、目標症例数に達するにはまだ時間が必要である。引き続き貴重な臨床検体の収集に努め、iTRAQ技術を中心としたCSFペプチドライブラリーの構築を進める。文献的には髄液中のタンパクは1000種を超えるとされているものもあることから、サンプル処理、質量分析手法にさらなる検討を加え、その網羅性を向上させる必要があると考えている。 作成したCSFプロテオームと血漿プロテオームを用い、Human Protein AtlasやCSF-PR 2.0などの既存のオープンソースのデータベースとソフトを利用し、血漿・脳・脊髄由来のタンパク質の選別を加速させる。 また、網羅的プロテオーム解析に加え、特定のタンパク群を対象とした比較定量を行う半網羅的プロテオミクスも併施しPOCDの創薬標的を積極的に探索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
実験手技の確立に時間を要し、高価なiTRAQ試薬の使用量が当初予測より少なかった。 次年度はすでに採取した臨床検体を含め積極的なプロテオーム解析を予定しており、実験試薬の購入に次年度繰越額を充当させる計画としている。
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