2019年度に遺伝子改変動物の安定的飼育が可能となり、アデノ随伴ウイルスを用いた青斑核神経細胞の人為的制御による実験を行った。光遺伝学的手法を用いた神経細胞の制御を予定していたが、神経障害後の長期間飼育中に光ファイバーが外れるなどの懸念が生じたため、薬理遺伝学的手法(DREADD)により制御を行った。神経障害性疼痛モデル作成後6週程度経過すると、今回使用した遺伝子改変ラットにおいても内因性鎮痛の減弱が確認された。人工受容体を発現させるアデノ随伴ウイルスベクターをラット青斑核周囲に投与しその2週後に人工リガンドであるCNOを投与する。興奮性の人工受容体を発現させたラットでは神経障害に伴う疼痛が回復した個体もいれば全く回復しない個体も観察された。青斑核の神経細胞へのアデノ随伴ウイルスの感染が確認されたにもかかわらず、鎮痛が見られない個体がいた。このことは青斑核は疼痛を調節する脊髄へ当社しているだけでなく、脳を含む部位への投射が逆に発痛的に関与した可能性が示唆された。このため逆行性感染を起こす別のウイルスベクターを用いて脊髄へ投射する青斑核細胞のみを制御したところ、興奮させた場合には非常に強い鎮痛、抑制した場合には極軽度の発痛状態が確認された。現在はこの逆行性ウイルスベクターを脳に投与し、脊髄以外へ投射する経路の役割を検討している。脊髄へ投射する経路の興奮を調節した場合、非常に強い鎮痛が確認され、ほぼ測定限界近くまで達したため他の鎮痛薬の効果を確認することはできなかった。脊髄に投射する経路を抑制した場合は新たな刺激によって鎮痛が見られるようになったが、CNOによる抑制効果との総和では有意な鎮痛は見られなかった。脳へ投射する経路を制御した際の鎮痛薬の鎮痛効果とともに検討を継続している。
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