研究課題
【研究開始当初の背景】高齢者の手術が増加する一方で、術後せん妄(postoperativedelirium: POD) が注目されている。PODの発症は、退院後の身体機能や認知機能の悪化のみならず、死亡率増加にも関連しているが、詳細な発症機序は明らかでなく、現時点において特異的な治療法もない。【研究の目的】神経ステロイドは、神経組織内で生合成されるステロイドと定義され、その変動が、不安・うつ・統合失調症などの神経精神性障害の病態発現に密接に関わることが報告されている。また近年、PODの病態として、脳内炎症の重要性が多く報告されている。脳内炎症は、脳内で炎症性サイトカインが生理的な範囲・期間を超えて過剰に放出された状態である。本研究では、高齢開腹手術モデルラットを用いて、PODの発症に神経ステロイド(Allopregnanolone; ALLO)を用いた治療介入が有効であるかどうかを検討した。【研究結果】(1) 高齢ラット開腹手術モデルを応用した術後せん妄モデルの開発:対象動物は、当初予定していたマウスから、過去の研究で対象としてきた高齢ラットに変更し、これまで存在しなかった高齢ラット術後せん妄モデルの開発を行った。具体的には、開腹手術後にせん妄の主症状である注意力と認知力の評価を、音刺激と機械刺激を組み合わせたラットの行動凍結時間で評価した。(2) 神経ステロイド(ALLO)のPOD治療効果の検討:上記術後せん妄モデルに対して、ALLOを腹腔内投与し、術後脳内炎症の評価を、炎症性サイトカインTNFα・IL-1βを標的として、ELISA法及びRT-PCR法でそれぞれ評価し、ALLO投与群で優位に脳内神経炎症は抑制された。さらに注意力・認知機能ともに、ALLO投与群で優位に保持された。これらの結果から、ALLOはPODに対する新規治療薬となる可能性がある。
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