遠隔虚血プレコンディショニング(RPC)とは,四肢を短時間の虚血と再灌流を複数回施行することで得られる虚血再灌流傷害(IRI)に対する保護効果のことである.RPCの機序には未知の液性保護因子の関与が示唆されている.RPCの保護効果は迷走神経切断(胃後枝)で抑制されることが示され,その神経支配臓器から液性保護因子が放出されると推測されている.グレリンは胃から産生されるホルモンであり,体内でアシル化型(AG)と非アシル化型(UAG)の2つで存在し共に心保護効果を有する.RPCの機序においてグレリンの関与は未知である.本研究では,RPCの液性保護因子にグレリンの可能性の有無について検証した.雄性Wistar ラットを用い, in vivoでの冠動脈前下行枝を30分間虚血と120分間再灌流させる心臓IRIモデルを誘導した.RPC手技はラットの上下肢に血圧カフを装着し200mmHgで5分間駆血と再灌流させるサイクルとして3回施行とした.UAG投与量は0.5mcg/kg,JAK/STAT経路の阻害薬(AG490)の投与量は3 mg/kgをそれぞれ静脈内投与した.血清AG値およびUAG値の測定は,RPC手技前後で測定した.全ての個体でArea at riskと梗塞サイズ (IS)を測定し,さらにRPCの保護経路の1つとされるJAK/STATをウェスタンブブロット法により測定した.CON群に比較しRIPC群で,ISが有意に減少した.また,CON群のUAG値は有意な増減は認めなかったが,RIPC群で血清UAG値が有意に増加した.この結果に加えて,UAG投与群でISが有意に減少し,AG490投与によりRIPCおよびUAGの心保護効果はSTAT3のリン酸化が阻害されることによって棄却された.RPCの液性保護因子の1つにUAGが関与し,心臓IRIの軽減に寄与している可能性が示唆された.
|