研究実績の概要 |
脳損傷後患者には有効な治療法がないため、脳再生医療が期待されている。脳には生涯にわたって神経幹細胞が存在することが分かっている。げっ歯類の側脳室側壁にある脳室下帯に神経幹細胞が存在し、そこから産生された新生ニューロンは吻側移動経路(RMS)の中を、互いに接着して鎖状の細胞塊(鎖状塊)を形成しながら前方にある嗅球に移動する。嗅球に到着した後に、新生ニューロンは鎖状塊から離脱し、神経回路に組み込まれ、嗅球神経回路の維持や嗅覚機能に関与する。さらにいくつかの脳傷害動物モデルを用いた研究により、脳室下帯で産生された新生ニューロンのごく一部が損傷部位へ移動し成熟することが明らかとなり、再生への関与が示唆されている。 脳損傷部位へ向かう新生ニューロンの多くは鎖状塊を形成し移動するが、移動の最終段階では鎖状塊から離脱することが知られている。申請者は、げっ歯類の嗅球において非受容体型チロシンキナーゼの一種であるFynが新生ニューロン間接着(鎖状塊)からの離脱を促進していることを発見した。 Fynが新生ニューロンの脳損傷部位への移動に関与しているかどうかを調べるために、脳傷害モデルマウスの作成を行い、マウス凍結脳傷害モデル(Ajioka, Sawamoto et al., Tissue Eng Part A.2015)を安定して作成することができた。また傷害部に移動する新生ニューロンのFynの発現やリン酸化状態も免疫組織化学的に確認することができた。脳損傷部への新生ニューロンの移動にFynが関与しているかどうかを調べるために新生ニューロンのFynの発現抑制実験を行なった。Fynを抑制しても鎖状塊を形成しながら脳損傷部位周囲まで移動できるが、移動の最終段階である鎖状塊からの離脱は抑制される傾向があった。以上の結果からFynは脳損傷部位への新生ニューロンの移動を促進している可能性が示唆された。
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