研究実績の概要 |
当初使用を予定していたアストロサイト特異的CRACノックアウト(KO)マウス(GFAP Cre, Orai1 fl/fl)はGCaMP6を用いて脳スライス標本を作製しGFAP Creの発現を観察すると、海馬CA1錐体細胞の大部分に発現している事が判明したためアストロサイト特異的に検討をする事が難しいと判断した。我々は他の研究で海馬CA1アストロサイトのgliotransmitterが抑制性神経細胞の興奮性を増強し神経伝達を制御している事を発見したため、予備的な実験結果が抑制性神経細胞を介したものである可能性が考えられた。そこで抑制性神経細胞のOrai1を特異的にKOしたマウス(Gad2 Cre, Orai1 fl/fl)を用いてイソフルラン麻酔からの覚醒時間をWT (Wild type)マウス(Cre-, Orai1 fl/fl)と比較すると、KOマウスで有意に覚醒が早い結果となった。またこの結果はより短時間作用性吸入麻酔薬であるセボフルランでも同様の結果となった。覚醒時間は麻酔深度だけでなく呼吸回数に依存するためそれも同時に比較したが、KOマウスとWTマウスで有意な差を認めなかったため、抑制性神経細胞のCRACチャネルが吸入麻酔薬の作用メカニズムに関わっている可能性が示唆された。麻酔覚醒時間は当初検討を予定していた海馬よりもより意識レベルに関わる部位での抑制性神経細胞が関与している可能性が考えられる。まずは脳皮質での記録を試みたが、現状パッチクランプに用いている顕微鏡は型式が古く蛍光色素の観察ができないため、抑制性神経細胞の同定が困難と判断した。脳皮質に加えて麻酔の意識レベルに重要とされる視床網様体ではほとんどの神経細胞が抑制性であり、またそれは発火特性から推測できるため、現在は視床網様体の抑制性神経細胞で麻酔メカニズムへの関わりを検討中である。
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