研究実績の概要 |
抑制性神経細胞のOrai1を特異的にノックアウト(KO)したマウス(Gad2 Cre, Orai1 fl/fl)をwild type(WT)マウスと比較し、Y迷路により短期記憶の程度を検討すると、吸入麻酔薬セボフルラン暴露前はWT・KOマウスで大きな差を認めなかったが、セボフルラン暴露後はKOマウスの方が全身麻酔後の短期記憶障害がWTマウスよりも小さい事が分かった。 これを海馬急性スライス標本のLTP (long-term potentiation)にて比較検討すると、行動実験と同様にセボフルラン暴露前はWT・KOマウスで共に同程度のLTPが見られたが、セボフルラン麻酔後のLTPの抑制はKOマウスの方がWTマウスよりも小さい事が分かった。 このメカニズムを検討するため、海馬急性スライス標本で海馬CA1領域の網状分子層(stratum lacunosum moleculare)と放射状層(stratum radiatum)との境界に存在する抑制性神経細胞からホールセルパッチクランプ記録を行い、自発性抑制性シナプス後電流 (spontaneous inhibitory postsynaptic current; sIPSC)の比較を行うと、セボフラン還流前はWT・KOマウス共に大きな差は見られなかったが、セボフルラン灌流時にはWTマウスではsIPSCの頻度上昇が見られるのに対し、KOマウスではその反応が小さい事が分かった。そのため、このsIPSCの頻度上昇が行動実験等のメカニズムとして寄与している可能性が示唆された。
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