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2018 年度 実施状況報告書

疼痛鈍麻の表現型を示す遺伝子改変マウスの包括的遺伝子解析から新たな疼痛因子を探る

研究課題

研究課題/領域番号 18K16492
研究機関奈良県立医科大学

研究代表者

新城 武明  奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (70624914)

研究期間 (年度) 2018-04-01 – 2020-03-31
キーワード疼痛 / 疼痛関連因子 / トランスジェニックマウス
研究実績の概要

疼痛の発生メカニズム及び神経系における伝達機構は多様でありその全貌は明らかではない。疼痛の実態を客観的に把握することは極めて困難であること、また、疼痛の発生のメカニズムは多様であることが、疼痛への適切な対処を困難にしている。
我々は、別の研究テーマで使用しているTGマウスが、痛み刺激(機械刺激、化学刺激)に対する反応が著しく低下していることを偶然に見出した。痛み反応がある程度減弱している遺伝子改変マウスはこれまでにも報告されているが、このTGマウスほど劇的に痛み行動が減弱するマウスはこれまで報告例がない。疼痛の発生のメカニズムは多様であることが、疼痛への適切な対処を困難にしているが、このTGマウスは劇的に痛み行動が減弱するため、疼痛の中心的な機序解明に迫ることができる可能性が極めて高いと考えている。
TGマウスはBACトランスジェニックマウスであるため、我々は当初、BAC内に含まれた遺伝子こそが疼痛機序に重要であると考えたが、当該遺伝子の発現は野生型マウスと比較しても変動せず、また疼痛の発生に寄与しないことを見出している。そこで我々は、TGマウスではBACトランスジーンの挿入によって、内在性の遺伝子の発現が阻害または変動した結果、疼痛刺激に対する行動変化が起きたと考えた。現在までにトランスジーンが8番染色体に挿入されていること、挿入部位近傍の遺伝子制御が破綻していることを明らかにしている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

TGマウスはBACトランスジーン(198kb)の挿入によって、その領域の内在性の遺伝子の発現を阻害または変動させ、その結果生じる何らかの遺伝子の機能異常により、疼痛刺激に対する行動変化が起きたと考えられる。現在までにトランスジーン挿入部位近傍の3つ遺伝子制御が完全に破綻していることを見出した。興味深いのは、これらの候補因子はこれまで報告のある疼痛関連因子ではないことである。つまり、TGマウスでは、これまで報告されていない疼痛関連遺伝子の発現制御が乱れ、痛み行動が減弱している可能性が高い。
同定された候補因子の中でも特に注目している遺伝子が、細胞膜の動態や細胞内トラフィッキングに関与する因子、Sorting nexin (Snx)である。メンブレントラフィック関連因子は細胞内における物質輸送や分解、シグナル伝達経路の調節等、生命現象の様々な局面において重要な役割を担っていることが報告され、最近では疾患との関連も報告されてきている。しかし、メンブレントラフィック因子の疼痛への関与については未だ報告はない。昨年度はSnxヘテロKOマウスを入手し、疼痛に対する行動解析を開始したが、興味深いことに、SnxヘテロKOマウス(ホモKOは胎生致死)はTGマウス同様に痛み行動の減弱と免疫系細胞の異常が認められた(未発表)。
また、WTおよびSnxヘテロKOマウスからDRGニューロンを調整し、Ca imagigを行なった結果、SnxヘテロKOマウス由来のDRGニューロンでは発痛物質に対する反応が有意に減弱していることを見出した。さらに、疼痛発生時に機能が亢進する疼痛関連因子(TRPV1, Nav1.7, P2X3, Trk等)の発現を調べた結果、SnxヘテロKOマウスではDRGにおけるこれらの発現が著しく低下していることを見出した。

今後の研究の推進方策

我々はこれまで、TGマウスおよびSnxヘテロKOマウスにおいて化学刺激(5% ホルマリンを後肢皮膚にinjection)後の末梢マクロファージでサイトカインやケモカイン発現量が減少していることを見出している。今年度まず、SnxヘテロKOマウスで炎症性因子の発現のみならず、マクロファージの貪食能、遊走能、炎症メディエーター分泌能が野生型(WT)と差異が認められるかを解析する。さらに、マクロファージ以外の免疫系細胞においても機能が変化している可能性もあるため、化学刺激後に浸潤するリンパ球、好中球、肥満細胞の数および形態学的特徴を免疫染色で検討する。
上記で解析したマクロファージの貪食能、遊走能、炎症メディエーター分泌能がin vitroで同様の結果が得られるかを検討する。具体的には、Snx遺伝子に対するsiRNAによる機能抑制およびコンストラクトを用いた過剰発現系で発痛物質産生、貪食能、遊走能、サイトカイン産生等の異常がみられるかを明らかにする。
我々は末梢の免疫系細胞におけるSnxにより疼痛が惹起されると仮説を立てているが、SnxヘテロKOマウスでは詳細な疼痛機序が見い出せない。Snxが疼痛に及ぼす責任部位は本当に免疫系細胞か、または痛みの伝導に関わるDRGか、あるいは両方かを明らかにするためには部位時期特異的なKOマウスの解析が必須となる。上記研究計画と並行してマクロファージ特異的(Lysozyme M-Creマウス, Cx3cr1-CreERT2マウスを用いる)、およびDRG特異的(Advillin-Creマウスを用いる)にSnxをKOしたconditional-KOマウス(タモキシフェン誘導型)を作製する。作製後、どちらのconditional-KOマウスで痛み行動が減弱するかを明らかにする。

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公開日: 2019-12-27  

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