疼痛の発生メカニズム及び伝達機構は多様でありその全貌は明らかではない。我々は、痛み刺激に対する反応が著しく低下しているTGマウスを起点として疼痛の中心的な機序解明に迫ることを目的とした。TGマウスはBACトランスジーンの挿入によって、その領域の内在性の遺伝子の発現を阻害または変動させ、その結果生じる遺伝子の機能異常により、疼痛刺激に対する行動変化が起きたと考えた。次世代シークエンスを用いた順遺伝学的なスクリーニングにより、トランスジーン挿入部位近傍の3つ遺伝子制御が完全に破綻していることを見出した。本研究では、細胞膜の動態や細胞内トラフィッキングに関与する因子、Sorting nexin (Snx)に着目した。Snx-KOマウスはTGマウス同様に痛み行動の減弱と免疫系細胞の異常が認められた。また、WTおよびSnx-KOマウスからDRGニューロンを調整し、Ca imagingを行なった結果、Snx-KOマウス由来のDRGニューロンでは発痛物質に対する反応が有意に減弱していることを見出した。さらに、Snx-KOマウスでは、DRGにおいて疼痛発生時に機能が亢進する疼痛関連因子の発現が著しく低下していることを見出した。末梢の免疫系細胞の異常が認められたため、マクロファージにおけるSnxにより疼痛が惹起されると考えられるが、DRGの異常の可能性もあるため、マクロファージ特異的、およびDRG特異的にSnxをKOした2種類のconditional-KOマウスを作製した。DRG特異的にSnxをKOしたconditional-KOマウスでは疼痛に対する行動異常はみられなかったが、マクロファージ特異的にSnxをKOしたconditional-KOマウスでは明らかな行動異常が認められた。このことから、Snxが疼痛に及ぼす責任部位は免疫系細胞のマクロファージであることが明らかになった。
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