静脈麻酔薬プロポフォールはγアミノ酪酸(γaminobutyric acid:GABA)A受容体サブユニットに結合すると考えられているが、GABAA受容体の発現がどのような分子メカニズムで調節され、さらにどのようにしてプロポフォールによる麻酔作用とどのように関わっているかについては未だに不明な点が多い。本研究は細胞外シグナル調節キナーゼ(extracellular signal regulated kinase: ERK)とGABAA受容体発現の関係に注目し、ERKによるGABAA受容体の発現、もしくは活性の制御について、中枢神経特異的にERK2を標的遺伝子欠損したマウスを用いて解析した。中枢神経特異的にERK2を標的遺伝子欠損したマウスは、防衛医科大学校生化学講座の佐藤泰司と東京都健康長寿医療センターの遠藤昌吾と共同で作出したERK2floxマウスとNestin-creマウスとの掛け合わせにより作出した。このマウスの海馬由来神経細胞初代培養細胞を採取し、初代培養神経細胞を得た後、培養15日目に細胞を回収した。これらのサンプルに対し、GABAA受容体サブユニットに対する抗体を用いたウエスタンブロット法により、GABAA受容体サブユニットの発現を解析したところ、ERK2遺伝子が欠損するといくつかのGABAA受容体サブユニットの発現が野生型マウスと比較して減少していることを発見した。さらに、これらの初代培養神経細胞において、各種GABAA受容体サブユニットの発現を共焦点レーザー顕微鏡で可視化した結果、ERK2が欠損するとGABAA受容体の細胞膜の発現に異常が生じることが判明した。また、パッチクランプ法を用いた実験により、ERK2がGABAA受容体の機能を制御していることを確認した。
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