外傷出血性ショック後に産生された腸間膜リンパ液は多臓器障害の誘因となる炎症惹起作用を有することが報告されてきたが、炎症惹起性物質の輸送機能は未だ明らかになっていない。我々は過去に、ショック蘇生後の腸間膜リンパ液中にエクソソームが存在することを証明し、これが全身性炎症反応症候群や急性肺障害の発症に関与する可能性を報告してきた。エクソソームは、直径100nm程度の細胞外小胞であるが、病態により異なるタンパク質、核酸、脂質などを含有し、細胞間情報伝達に関与する。本研究では、出血性ショックや虚血再灌流障害後の腸管由来エクソソームに内包される炎症メディエーターを同定し、全身性炎症反応の発症機序の解明を進めることを目的とした。 本研究で明らかになったのは以下の二点である。第一に、ラット腸管虚血再灌流ショックモデルを作製し、腸間膜リンパ液中のエクソソームを分離同定した。採取したエクソソームに内包される脂質成分を網羅的に解析し、虚血再灌流障害前後でエクソソーム中の脂質成分が大きく異なることを発見した。具体的にはショック後のリンパ液エクソソームに含有されるアラキドン酸など不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質の濃度が有意に増加することを明らかにした。さらに、これらの不飽和脂肪酸含有リゾリン脂質はヒト単球に対してToll like receptor 4を介した炎症反応を惹起することも示した。 第二に、ヒト腸管上皮細胞を用いて、腸管虚血再灌流障害を模したin vitro低酸素-再酸素化モデルを作製した。培養上清から刺激前後のエクソソームを分離し、タンパク、脂質、micro RNAの構成を網羅的に比較解析した。その結果、低酸素-再酸素化刺激によりエクソソームに内包される炎症性メディエーターの組成が大きく変化することを発見し、これらが腸管虚血再灌流後の全身性炎症反応に関与する可能性を見出した。
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