現行の心肺蘇生法(CPR)は自己心拍再開(ROSC)後における脳蘇生の言及はあるが、CPR中の脳蘇生の指標はない。実際にROSC後に脳保護を目的とした治療を行なったとしても実に70%の患者は脳障害で死亡することが言われている。またCPR中の脳保護には質の高い胸骨圧迫が必須である。胸骨圧迫中の質は現行のガイドラインではその深度や頻度によって規定されているが、体格や解剖科学的に心臓の位置が変位している場合など種々の個人差から上記によってのみ規定される訳ではない。脳血流がどの程度維持されているかを直接的に評価する指標に近年、近赤外分光法(NIRS)を用いた脳組織酸素飽和度(TOI)の有効性を示す論文が自験報告を含め多く発表されている。実際、TOIが高い患者群は低い患者群に比べてROSC率が高いという報告が自験例を含めて数多くある。本邦の救急搬送は現状覚知から病着までに平均で30分程度時間を要する中で、プレホスピタルでのリアルタイムのCPRの評価をどのように行うかに言及した研究はこれまでなかった。今回NIRSを用いて脳蘇生を救急車内から積極的に考慮することで、テーラーメイドCPRの確立を目指したいと考えており、そのパイロット研究として川崎北部救急と強く連携して研究を進めていきたいと考えている。検討すべきTOIとしては絶え間ない胸骨圧迫を考慮し特にTOIの変化に注目し、解析を進め、これからのCPRのあり方に一石を投じたいと考えている。
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