研究実績の概要 |
申請者らは2007年~2012年に当救命救急センターに入室した軟部組織損傷を伴う開放性骨折患者29名のうち高気圧酸素療法(HBOT)施行群と対照群を後ろ向きに比較検討を行ったところHBOT群では対照群と比較して感染率, 再手術率が有意に低下した. しかし, このように治療効果が得られている一方で, 基礎医学的な裏付けが不十分な治療である. 本研究ではHBOTの軟部組織損傷を伴う開放性骨折に対するHBOTの効果について創傷治癒や抗炎症作用, 細菌に対する直接的影響, 抗菌薬の作用増強という4つの観点から検討を行った. まずはSDラットを用いた皮膚損傷モデルに対して2.5ATA 90分/日のHBOT治療を行った群と行わなかった群について創傷治癒効果を確認したが創傷治癒効果に有意な差は認められなかった. 次に細菌と炎症に対するHBOTの治療効果について検討を行うためにマウスの糞便を培養した溶液をマウスに打ち込む細菌感染モデルとLPSを用いた全身性血管炎モデルを用いて実験を行った. これらマウスに対して同じくHBOT治療(2.5ATA 90分/日)を行ったが生存率に有意な差を認めず治療効果を得られなかった. さらにHBOTが薬物動態に影響を与えるを調べるためHBOTが抗菌薬の血中濃度に与える影響の検討とHBOTが抗菌薬の組織移行性に対する影響の検討をおこなった. MEPMをマウスの鎖骨下静脈より頚静脈投与した後にHBOT治療を行ったマウスと行わなかったマウスで検討を行ったところ, MEPMの血中濃度では有意差はなかったが, 肺, 肝臓におけるMEPMの組織濃度は投与後15min値でHBOT群に有意に高かった. 以上の結果から, HBOTは抗菌薬の組織移行性を高めることで,感染症に対して有効な転帰をもたらす可能性があると考えられた.
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