本研究では、アナフィラキシーにおける好塩基球活性化に着眼した分子学的観点からアナフィラキシーの病態を解明すること、アナフィラキシーの新規治療方確立の基礎的検討を行うことが目的である。まず、アナフィラキシー患者の末梢血中の好塩基球数の測定と好塩基球の活性化をフローサイトメトリーにより評価した。その結果、アナフィラキシー患者の好塩基球数は、健常者と比較し有意に低下し、発症翌日においても同様に好塩基球数の低下を示した。アナフィラキシー患者における末梢血中の好塩基球は全例で活性化を認めず、Anti-IgE抗体による刺激によって活性化を示した例は一部の症例のみであった。アナフィラキシー患者の血球内ヒスタミン値も健常者と比べ有意に低下し、好塩基球減少を反映していると考えられた。次に、重症度との関連では、重症な全身症状を呈する患者群で好塩基球数が低い傾向があり、血球内ヒスタミン値と負の相関があることが示された。また、血清FDP、D-dimerが高値であるほど血球内ヒスタミン値は低い傾向にあり、重症な全身症状を呈する患者では血清FDP、D-dimer値が有意に高値であることが明らかになった。アナフィラキシーのリスク評価法として、造影剤によるアナフィラキシーの既往がある患者を対象に定期外来受診時(非アナフィラキシー時)のアレルゲンに対する好塩基球活性化の検討を行ったが、造影剤の種類によらず好塩基球の活性化は認められなかった。以上の結果から、アナフィラキシーでは、活性化した好塩基球は末梢血から組織に移行し、末梢血には活性化能のない未熟な好塩基球が残存している可能性が示唆された。また、重症なアナフィラキシーの病態形成と好塩基球減少および凝固障害との関連が示された。
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