研究実績の概要 |
我々は昨年度までの研究で、グラム陰性桿菌の細胞外壁成分であるエンドトキシン (Lipopolysaccharide: LPS) が骨格筋膜表面のToll like receptor (TLR) 4に直接リガンドとして結合し、タンパク異化経路 (ユビキチンプロテアソーム経路およびオートファジー経路)が活性化され、骨格筋萎縮の病因病態になっている事を明らかにした。本年度は、さらにIGF経路等のタンパク同化経路に着目して研究を進行させた。 8-12週の雄性C57BL6マウスにLPS (1mg/kg)を腹腔内投与すると、全身性炎症反応 (インターロイキン6とTNFα血中濃度上昇)が惹起された。前脛骨筋におけるインターロイキン6とTNFαmRNAの発現量、およびNFkB活性(ELISAで検出)も上昇した。 この結果、前脛骨筋の活性化型AKtおよび活性化型S6Kの発現量が有意に低下した (P-Akt/Akt, P-S6K/S6K 比の低下をウエスタンブロッティングで検出)。 TLR4 特異的シグナル阻害剤、TAK-242を腹腔内投与すると、上記の炎症反応が減弱し、活性化型AKtおよび活性化型S6Kの発現量が回復した。これらの結果は、生体内においてLPSがIGF経路の下流にあるタンパク同化経路を抑制することを示す。 C2C12マウス筋管細胞を用いたin vitroな検討において、LPS (1μg/ml) の投与は同様に、炎症反応を惹起し、P-Akt/Akt, P-S6K/S6K 比の低下をきたした。TAK-242 (1μM)の投与により、IGF経路のLPSによる抑制効果は減弱した。 これらのデータは、LPSが骨格筋表面のTLR4にリガンドとして結び付き、直接タンパク同化経路を抑制することを意味している。LPSによる、骨格筋タンパク同化経路の抑制が骨格筋萎縮の原因の一つになっていることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
これらの成果は2020年2月1日第24回エンドトキシン血症救命治療研究会で発表し、最優秀演題賞を受賞した。 また、前年度までの結果を併せて以下の論文を出版した: 〇Ono Y, Maejima Y, Saito M, Sakamoto K, Horita S, Shimomura K, Inoue S, Kotani J. TAK-242, a specific inhibitor of Toll-like receptor 4 signalling, prevents endotoxemia-induced skeletal muscle wasting in mice. Sci Rep. 2020;10:694. Imai R, Horita S, 〇Ono Y, Hagihara K, Shimizu M, Maejima Y, Shimomura K. Goshajinkigan, a Traditional Japanese Medicine, Suppresses Voltage-Gated Sodium Channel Nav1.4 Currents in C2C12 Cells. Biores Open Access. 2020;9:116–120. Published 2020 Apr 27. doi:10.1089/biores.2019.0034. PMID: 32368413. これらのことから、おおむね本プロジェクトは順調に進行しているものと考えている。
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