本研究計画は、小脳室頂核(FN)電気刺激による脳梗塞の虚血耐性獲得に重要な役割を持つと考えられるミトコンドリア脱共役蛋白質UCP4(uncoupling protein 4)の発現メカニズムを明らかにすることを目的としている。 これまでラットを用いた研究で、UCP4が神経細胞に多く発現することを明らかにし、UCP4が脳梗塞による神経細胞死を抑制する可能性を見出した。UCP4の発現は脳部位によって異なるものの、FN刺激を行うことで大脳皮質のUCP4発現が有意に増加することが示唆された。またUCP4の発現はカルバコール投与で亢進しアトロピンで抑制され、さらにmitoKATPチャネル開口薬であるジアゾキシドによっても発現が誘導されたことから、FN電気刺激によってコリン作動性神経回路が活性化され大脳皮質に作用しmitoKATPチャネルを開口することでUCP4の発現が誘導されることを明らかにした。UCP4の発現によって活性酸素の発生が抑えられ細胞死を防ぎ、神経保護に働くと考えられる。以上、研究協力者らが明らかにした結果と併せてこれまで得られた知見をまとめ、米国心臓協会(AHA)の学術雑誌Stroke:Vascular and Interventional Neurologyに投稿・掲載された(査読有)。 UCP4の役割や機能については一定の見解が得られていないものの、脳梗塞の細胞死を抑制できる可能性だけではなく、アルツハイマー病の治療にも関係する可能性が考えられ(アルツハイマー病ではUCP4の発現が低下していることが報告されている)、新たな治療戦略としても期待される。
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