研究課題
人工多能性幹細胞から分化誘導した大脳オルガノイドを用いて損傷した大脳皮質を再生する技術の開発を進めた。まず損傷大脳皮質に移植するため、大脳オルガノイドをシート状に形成する技術開発を行なった。大脳オルガノイドへの誘導を効率的に行うため、低分子化合物を使用し前脳領域選択的誘導法を確立、さらに大脳オルガノイドを高空隙構造を有する三次元培養担体上で誘導することにより、シート状の大脳オルガノイドを作成する方法を考案した。驚くべきことに、オルガノイドに由来する神経上皮様の構造は三次元培養担体表面にとどまり、担体内には大脳皮質神経が多数遊走し、原始的ではあるが遅生まれのニューロンがより外側に配置されるin-side out構造を呈していた。さらに培養担体により適度な細胞間隙が確保され、過密による低酸素・低栄養に起因する細胞死が抑制され、従来の大脳オルガノイド誘導法ではなしえなかった皮質神経細胞層の拡大を認めた。培養担体内を多光子顕微鏡を使用して観察すると、皮質神経細胞は多数の神経突起を伸展していることがわかった。また神経突起の伸展は活発に行われていた。また多光子顕微鏡を用いてカルシウムイメージングを行い、培養担体内の神経細胞が自発的に発火しており、培養期間が進むにつれて発火のスパイクが先鋭となり、神経細胞が成熟することが示唆された。また、このシート状の大脳オルガノイドをラット脳損傷モデルに移植すると軸索をホスト脳へ伸展し、ホスト脳との神経回路を形成する可能性が示唆された。我々は、高空隙構造を有する三次元培養担体を用いることにより大脳オルガノイドの皮質神経細胞層を従来に比べて拡大し、成熟させる革新的な培養方法の確立にいたった。
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