研究実績の概要 |
前年度に続き、14例の新規追加症例を経験し、合計21例の対象症例で検体を蓄積した。 内訳は、年齢22-87歳(平均58.2歳)、男性14例、女性7例、受傷機転として交通外傷10例、転倒転落10例、重板落下1例で、来院時GCS 3-8(平均5.8)であった。30日後の転帰(GOS)は、1.Dead(D) 2例、2.Vegetative State(VS) 6例、3.Severely Disabled(SD) 8例、4.Moderately Disabled(MD) 5例、5.Good Recovery(GR) なし、であった。 髄液での多変量解析にて、正常およびGOS各群でのクラス分けが可能で、これに寄与する物質として、Pyrophosphoric acid、Palmitoleic acid、Fucose、Ethanolamine、Psicose、Mannose、Maltose、Putrescine、Inositol、Galactose、Cadaverine、2,3-Bisphospho-glyceric acidなど種々の代謝物質が挙げられた。Inositolなどでは、転帰良好群と不良群とで、経時的増減が対照的な挙動を呈していた。 末梢血の解析においても同様に複数の代謝物が同定され、L-Valineなどにおいて、髄液と末梢血とで似通った経時的変化がみられた。 文献上、Inositolは細胞の浸透圧調整に関わるとされ、脳出血や脳浮腫との関連を指摘する報告がある。L-Valineにおいても、動物実験にて、頭部外傷と血漿中濃度との相関が示されている。これらは、外傷に伴う出血や挫傷から直接的に由来する可能性とともに、生体内での様々な代謝を反映した応答産物とも考えられ、頭部外傷急性期の変化を鋭敏に捉えるマーカーとしての役割が期待される。
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