研究課題/領域番号 |
18K16570
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
大石 裕美子 慶應義塾大学, 医学部(信濃町), 助教 (50793121)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 脳切片培養 / Brain slice culture / iPS細胞 / 神経幹細胞 / 悪性神経膠腫 / グリオーマ幹細胞 |
研究実績の概要 |
申請者らは、ヒト悪性神経膠腫に対して、ヒトinduced pluripotent stem cell (iPS細胞)由来のNeural stem cell (NSC)をcellular delivery vehicleとして用いた自殺遺伝子治療を行い、著明な効果を挙げた。今後の課題に、「NSCの長期にわたる生体内での挙動」「治療抵抗性の原因となっているヒトグリオーマ幹細胞の生体内での挙動」及び「自殺遺伝子治療におけるバイスタンダー効果のライブイメージング化による抗腫瘍効果の評価」を挙げている。脳スライス培養法により、脳内に近い細胞構築を保ちつつ、長期間の観察をすることが可能となった。申請者らは移植細胞を可視化することで、上記課題の解決に努める。生体内での幹細胞の挙動を明らかにすることは、脳腫瘍に対する治療のみならず、あらゆる疾患に対する幹細胞を用いた再生医療を飛躍的に促進させる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
患者検体より樹立したヒトグリオーマ幹細胞株(hG008)に、ffLuc発現レンチウイルスベクター(CSII-EF-ffLuc)を感染させ、セルソーターによるクローンソートを行い、ffLucが安定高発現するhG008細胞株を得ることに成功した。ヒトiPS細胞由来NSCの可視化には、Humanized Kusabira-Orange(hKO1) 蛍光タンパク質遺伝子を用いた。CSIV-EF-HSV1tk-IRES2-hKO1レンチウイルスベクターを用いて、HSVtk-hKO1発現ニューロスフェアを作製した。こうして脳切片培養上で、「赤」「緑」の2色で可視化することに成功した。右線条体にU87-ffLuc移植後7日目に、その上方1mmにNSC-hKO1移植を試みたが、盲目的な操作のため、計画していた位置にNSC-hKO1を移植する事は容易ではなく、条件検討にやや時間を要したが、最終的には達成し再現性も確認した。その後、非灌流下で断頭しVibratomeで200μm厚の脳切片を作成し、Sterile porous insert membranesにのせ、共焦点レーザー顕微鏡で7日間観察した。その結果、コントロール(U87なしで線条体にNSC-hKO1を移植)に比して、明らかにNSCの脳内遊走は良好で、U87の腫瘍上方から腫瘍内に入り込む様子をリアルタイムに撮影することに成功した。 hG008は脳内でびまん性の浸潤を示し、腫瘍塊を示さなかったため、腫瘍移植部位と同一部位にNSC-hKO1を移植した。その結果、局所に移植されたNSC-hKO1は明らかに末梢に浸潤したhG008細胞まで遊走していき、Cellular delivery vehicleとしての有用性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
まず、U87-ffLuc及び、hG008-ffLucへのNSC-hKO1の遊走性・指向性の再現性を得る。 さらにより遊走性を明瞭にするために、対側にU87-ffLuc 及びhG008-ffLucを移植し、NSCを脳梁上で遊走させる系を樹立する。さらに、最終的には、NSCが腫瘍に到達したところで、ガンシクロビルを投与し、bystander効果による抗腫瘍効果を確認する。腫瘍のサイズ及び、NSCの移植細胞数を変えることで、bystander効果の及ぶ範囲等も定量解析する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
グリオーマ細胞及びiPS細胞由来神経幹細胞に蛍光タンパク質遺伝子を導入し可視化細胞を作製する事は予定通りであったが、形成した腫瘍塊の上方にiPS細胞由来神経幹細胞を移植し、安定して200μm幅の脳切片を作製することが容易ではなく、再現性の得られるモデル樹立に時間を要したため、脳切片培養によるライブイメージング撮影がU87グリオーマ細胞株及びhG008グリオーマ幹細胞株に対して1度ずつしか施行できなかった。そのため再現性を得るため、次年度に同撮影を繰り返し行う必要がある。また、iPS細胞由来神経幹細胞の指向性は得られたが、より明瞭に定量化するために、脳梁を介して対側に移植する系を予定していたが、これも次年度に行う予定とした。そのため、本年度予定していた撮影代など一部を次年度に繰り越すこととした。
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