研究課題
両側総頚動脈を結紮することで作成した慢性脳虚血モデルラットに対して、作成の1週間後に右側頭頭頂部の間接血行再建術(側頭筋を脳表に敷き込む手術)を行い、その際にHMGB1蛋白(1μg)を側頭筋に筋注したHMGB1群と生理食塩水のみを筋注したcontrol群に分けた。間接血行再建術4日後および14日後の時点で脳を摘出し、摘出脳の大脳皮質の血管数と、大脳皮質および側頭筋のVEGF蛋白の発現程度を評価した。大脳皮質の血管数に関しては、4日後では非手術側(左側)と手術側(右側)を比較すると2群とも有意差は認められなかったが、14日後では、HMGB1群において非手術側と比較して手術側での血管数の有意な増加が認められた(p<0.01)。VEGF蛋白の発現に関しては、ELISAでの評価を行い、4日後の大脳皮質では2群とも手術側と非手術側で差は認めず、HMGB1群の側頭筋では非手術側と比較して、手術側で有意にVEGF蛋白濃度が上昇していた(p<0.05)。14日後の大脳皮質では、やはり2群とも手術側と非手術側で差を認めず、2群とも側頭筋では非手術側と比較して、手術側で有意にVEGF蛋白濃度が低下していた(p<0.01)。モデルに対して核種のI123-IMPを静注して小動物用SPECTを撮影し、手術側/非手術側の脳血流比を測定したところ、コントロール群と比較してHMGB1群で有意に脳血流比が増加していた(p<0.01)。これらの研究結果から、慢性脳虚血モデルに対する間接血行再建術時にHMGB1蛋白を局所に投与することで、早期に側頭筋内にVEGF蛋白が発現することで14日後の脳表の血管新生を促進し、脳血流を増加させることが判明した。上記内容を英文誌に投稿し、掲載された。
2: おおむね順調に進展している
研究の段階としては、1. 動物実験計画の承認を得る、2. 慢性脳虚血モデル作成とHMGB1蛋白導入、3. モデル脳での新生血管の評価、4. モデル脳での血管新生に関与する遺伝子発現の評価、5. In vivoでの脳血流の評価、6. 統計学的データ解析・学会発表・論文投稿を予定しており、当該年度に5-6の段階を行うことができた。
今後は、このモデルでのHMGB1蛋白の有効性をさらに評価するため、術14日以降の評価や行動学的評価を行っていく必要がある。また、今までの研究ではHMGB1蛋白は1μgを投与しているが、今後は脳血流を増加させることができる血管数を得るに十分で、副作用の生じにくい、HMGB1蛋白の至適投与量を検討する必要がある。そのため、血管透過性や脳浮腫の評価が必要である。
令和元年度は、物品費を節約、また研究室に既存の消耗器材等を利用したため次年度への使用額が生じた。繰り越しされる額は、物品費、また研究成果の発表のための学会出張旅費へ充てる予定である。
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すべて 雑誌論文 (15件) (うち国際共著 2件、 査読あり 15件、 オープンアクセス 5件) 学会発表 (51件) (うち国際学会 11件)
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