本研究の目的は、慢性炎症を背景とする動脈硬化などの種々の要因が及ぼす慢性脳虚血状態によって生じたくも膜の組織変性を病理学的な観点から解析し、脳虚血の活動性や脳卒中の再発リスクの予測を可能にすることとしている。当該年度では、基礎疾患によらず広く検体を収集し、くも膜とはなにか?くも膜の厚さとは?を解析することから開始した。検体はくも膜のみの場合は微小検体でありパラフィンブロック作成時に脱落する症例があり、約100症例のうち病理解析が可能であったのは74例であった。病理スライド上で厚さと線維芽細胞数、CD68陽性細胞数、CD86陽性細胞数、CD206陽性細胞数の平均値を測定した。くも膜の厚さは年齢・線維芽細胞数、CD68陽性細胞数、CD86陽性細胞数、CD206陽性細胞数と統計学的有意差をもって弱い相関がみられた。また、一部残存検体があった58例でrt-PCRを行い、TGFβ、TNFα、VEGFαのmRNA発現量を測定した。各種サイトカインは互いに強相関を示した。このことから、くも膜の肥厚や変性がVEGFαやTGFβなどの炎症性サイトカインによって惹起され、それらが加齢(p<0.05)や虚血性疾患に影響され惹起されることが示唆された。本研究の母数は多岐にわたる疾患を含有していたが、殊もやもや病においては年齢層に比してくも膜の肥厚が進んでいる傾向があり、その傾向からは側副血行路の発達、特に硬膜を介した側副血行路を誘導する際に放出されるサイトカインの影響が予想される。
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