研究実績の概要 |
本研究は脳腫瘍における上皮間葉系移行メカニズムの解明を目的としている。これまでの研究で、分化した星細胞系腫瘍細胞が間葉系細胞へ形質転化する可能性を示した。具体的には上皮間葉系移行関連転写因子である、Slug, Twistが神経膠肉腫の間葉系成分に限局して発現していた。昨年までの2年間の研究で、上皮間葉系移行関連転写因子のうち、他癌種にてその発現が確認されているZEB1が神経膠腫細胞で発現、ZEB2の発現は見られなかった。ZEB1は全例50%以上の腫瘍細胞で発現、ZEB2は30%の症例で50%以上の腫瘍細胞発現が観察された。通常の神経膠腫細胞で発現されるZEB1は、肉腫様細胞への分化誘導への関連性は薄いと考えられた。一方でZEB2は神経膠腫細胞での発現はなく、同分子の形質転換への関連性が示唆された。次に下流分子の発現解析では、E-, N-cadherin, MMP2は神経膠細胞で発現がなく、MMP9が40%の症例で観察された。免疫染色で確認された蛋白発現がmRNAレベルでも高い発現を示すことを確認した。上皮間葉系移行は転移・浸潤において大きな役割を担っているとされている。神経膠腫の頭蓋外転移は極めてまれであるが、頭蓋内の播種は再発例を中心に多く見られる病態である。頭蓋内への播種、頭蓋外への転移組織の検索を行い、転移・播種病変でTWIST, ZEB2の高発現が確認された。転写制御因子の調整役としてmicro RNAが関与していると仮定し検索を行ったが、高発現するmicro RNAは見られなかった。 今回の研究にて、神経膠腫細胞の肉腫様形質変化、及び播種・転移に上皮間葉系移行メカニズムが関与していることがわかった。主に転写因子としてZEB2高発現が関与し、下流因子としてMMP2が蛋白分解に作用している。細胞間結合の減衰を来す主要メカニズムとされるcadherinの発現及び発現スイッチが、神経膠腫の形質転換に関与していないことも重要な結果であった。
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