研究実績の概要 |
本研究はCdc42特異的阻害薬であるML141の神経膠芽腫に対する抗腫瘍効果を明らかにする事を目的としている。我々はすでに、非活性型Cdc42が動物実験においてマウスの生存期間を有意に延長させ、腫瘍の大きさも小さいことを報告した。この事は、ML141を用いることにより、腫瘍を縮小できる可能性を示唆している。ML141による腫瘍縮小効果が明らかとなれば神経膠芽腫に対する有効な化学療法の1つとなる事が期待できる。
現在までのところ試験管内での実験を行った。まず、数ある神経膠芽腫細胞株の中でCdc42活性をしらべ、最も高かったU251, U373を今後の実験で使用することにした。この細胞株を用いて、ML141治療下のCdc42活性を測定し、活性が十分抑制されるML141の指摘濃度、15uM, 30uMを決定した。
ML141はU251, U373の細胞増殖、遊走能、浸潤能を濃度依存性に有意差をもって抑制した。 また、共焦点顕微鏡を用いた細胞骨格、細胞形態観察では、無血清培養の条件下でML141は、細胞の糸突起形成を抑制した。Cdc42は糸突起形成に関わっていることが知られており、ML141の治療効果とみられる。この現象は、血清培地条件下では認められなかった。しかしながら、増殖がとてつもなく速い神経膠芽腫の中心部は壊死を起こし栄養飢餓状態となっていることが知られており、この事は、飢餓状態にあると考えられる腫瘍中心部の細胞に対する試験管レベルでの糸突起形成を抑制することによって、細胞遊走、浸潤を抑制する可能性を示唆する現象でとても興味深い。
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