研究課題/領域番号 |
18K16611
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
山本 尚輝 東京医科歯科大学, 医学部附属病院, 特任助教 (60808046)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2021-03-31
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キーワード | 高気圧酸素治療 / 筋肉 / 血管新生 / 筋再生 / 圧挫損傷 / 一酸化窒素 / VEGF / 筋張力 |
研究実績の概要 |
骨格筋圧挫損傷後に高気圧酸素治療(HBO)を施行したHBO群と施行していないNT群を作成し、損傷3.6時間後に血管新生を刺激する血管増殖因子(VEGF)蛋白量が増加し、損傷1日後の増殖期の血管内皮細胞数が、損傷3日後に未熟血管新生、損傷3-7日後に成熟血管新生、損傷5日後に再生筋線維数、損傷7日後に筋張力の回復が各々有意に促進されていることが示唆された。HBOは活性酸素種(ROS)や一酸化窒素(NO)を一時的に増加させて細胞増殖や抗菌作用等を促進すると言われており、HBO終了後ROS, NOは10分以内に低下するため生体への悪影響は低いと言われている。ROS, NOは血管新生を促進すると言われているので、ROS, NOと血管新生の関連性を調査するために、ROS, NOをともに阻害するNアセチルLシステイン(NAC)とNOを産生するNOSのみ阻害するナイトロLアルギニンメチルエステル(LNAME)を投与した結果、HBOをしているにもかかわらず、損傷3.6時間後のVEGF増加、損傷1日後の増殖期の血管内皮細胞数、未熟・成熟血管新生促進作用はNAC+HBO群、LNAME+HBO群で同等に抑制された。よってNAC,LNAMEで共に阻害されるNOが血管新生に重要であると考えられるため、HBOはNOを介したVEGF増加によって血管内皮細胞増殖、血管新生を促進していることが解明された。HBO群で有意に増加した再生筋繊維数や有意に回復した筋張力は、NAC+HBO群、LNAME+HBO群で抑制され、LNAME+HBO群でより強く阻害される傾向を認めた。そのためHBOはNOを介したVEGFの増加によって血管新生ならびに筋再生を促進していることが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
骨格筋圧挫損傷後に高気圧酸素治療HBOを施行したHBO群と施行していないNT群を作成し、活性酸素種(ROS)や一酸化窒素NOを産生するNO産生酵素(NOS)を阻害する薬剤を投与して検討をすすめた。ROSやNOをともに阻害するNアセチルLシステイン(NAC)とNOSのみ阻害するナイトロLアルギニンメチルエステル(LNAME)を過去の研究に則り損傷前日より45mg/匹ずつ投与しHBOを施行した群を作成し、それらの群における血管内皮増殖因子(VEGF)、増殖期の血管内皮細胞、未熟血管・成熟血管新生を調査し比較検討した。結果HBOをしているにもかかわらず、損傷3.6時間後のVEGF増加、損傷1日後の増殖期の血管内皮細胞数、未熟・成熟血管新生促進作用はNAC+HBO群、LNAME+HBO群で同等に抑制された。よってNAC,LNAMEで共に阻害されるNOが血管新生に重要であると考えられるため、HBOはNOを介したVEGF増加によって血管内皮細胞増殖、血管新生を促進していることが解明された。また血管新生は筋再生に不可欠であり、骨格筋圧挫損傷においてHBOの血管新生促進効果が筋再生に影響するかどうかは検討すべき項目である。そのため凍結標本のH&E染色によって染色された中心核をもつ再生筋繊維数を損傷5日後にカウントし、引張応力による筋張力を損傷7日後に測定した。その結果、HBO群で有意に増加した再生筋繊維数や有意に回復した筋張力は、NAC+HBO群、LNAME+HBO群で抑制され、LNAME+HBO群でより強く阻害される傾向を認めた。そのためHBOはNOを介したVEGFの増加によって血管新生ならびに筋再生を促進していることが示唆された。また血管造影に関しては、心臓からバリウム血管造影にムラがあるため大腿動脈からの注入を試みたが、うまく造影を行うことができなかった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、血管造影を成功させるためにトマトレクチンを血管に流しての造影やMicrofil以外の造影剤の検討を行う。血管造影が成功するなら血管造影後に切片を作成し、視覚的に増殖期の血管内皮細胞や未熟血管細胞をとらえ、可視化したいと思う。また、血管新生を促進する因子としてVEGF以外にも塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGF)、肝細胞増殖因子(HGF)、アンギオポイエチン1,2等があり、血管内皮細胞内の別々のレセプターを刺激し血管新生を促進すると言われている。そのためこれらの因子を調査し、骨格筋圧挫損傷後にはどの因子が増加しているのかを調査したい。また、NO増加によって低酸素誘導因子(HIF)1αの安定化がすすむことでVEGFの産生増加が起こると言われている。HIF1αの安定化は脳梗塞急性期に損傷4時間後に増加すると言われているが、骨格筋圧挫損傷の場合はどうか不明である。そのためHIF1α蛋白量とHIF1αmRNAを測定し、HIF1α安定化が促進されるかどうかを調査し、NO増加がHIF1α安定化を促進しVEGFを増加させるメカニズムを証明し、HBO治療プロトコールの一助となるように研究を進めたい。そしてこれらの結果を取りまとめ、成果の発表を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
可能な限りの薬品、動物等を購入したが、残金では実験計画に必要な物品購入するためには不十分であり、購入できなかったため。
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