ばね指やドケルバン病などの手の狭窄性腱鞘炎は、糖尿病や手指作業者に加え40-50代の女性に多く発症する。閉経期から閉経後の女性に多く発症し、また好発 年齢に外れた早期閉経女性や出産後女性にも腱鞘炎の症状が多くみられることから、エストロゲンがその発症に関連していると推測されてきた。しかし、その病態や機序は未だ明らかとなっていない。 研究代表者は先行研究において1)核内受容体の一種であるエストロゲン受容体(ER)がマウス屈筋腱の腱細胞に発現して いること、2)閉経モデルマウスでは、屈筋腱におけるERの発現量が変化することを発見し、エストロゲンが屈筋腱の恒常性維持や機能に影響している可能性を見出した。そこで本研究は閉経モデルマウスの滑膜内腱を用い、それらを分子生物学的アプローチにより解明し、これまで研究が困難であった狭窄性腱鞘炎の病態 解明や新しい治療および予防法の開発へ結びつく研究基盤の確立を目的とした。 2018年度は閉経モデルマウスの滑膜内腱のRNA-seq.を行い、網羅的遺伝子解析 結果より変異遺伝子群の解析を行った。2019年度では、閉経モデルマウス腱および 腱周辺組織の組織学的解析を行った。2020年度は組織学的調査およびRNA-seq.結果への解析の再検討を行った。結果、本研究結果では閉経モデルマウスに生ずるエストロゲン欠乏状態が滑膜内腱において様々な遺伝子の発現を変動させることが明らかとなった。さらに発現が変動した遺伝子の中には腱の恒常性や機能の維持に重要な遺伝子が含まれていたことから,エストロゲン欠乏が狭窄性腱鞘炎発症に関与している可能性が示された.2021年度は研究結果をまとめ論文投稿中である。
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