研究代表者は過去の研究において,腱損傷部には変性と修復の両方に直接関与する特異的な間葉系幹細胞が誘導されることを示した.臨床試験において,高分子ヒアルロン酸は腱の変性に伴う疼痛や機能を改善することが報告されている.本研究では,腱の変性を予防する物質として高分子ヒアルロン酸に注目し,損傷腱由来間葉系幹細胞を用いて実験を行い以下の結果を得た. ① CD-1マウスのアキレス腱損傷部から単離した損傷腱由来間葉系幹細胞をmicro mass cultureにより軟骨細胞へ分化誘導し,高分子ヒアルロン酸(濃度0.01~1 mg/ml)で処理した.ヒアルロン酸は,アルシアンブルー染色のintegrated densityを濃度依存的に減少させた.また,高濃度のヒアルロン酸は軟骨分化マーカー(aggrecan,Sox9,II型コラーゲン)の遺伝子発現量を減少させ,腱分化マーカー(Mohawk,I型コラーゲン)の遺伝子発現量を増加させた. ② ヒアルロン酸合成阻害剤4-メチルウンベリフェロン (4-MU) を用いて同様の実験を行った.4-MUによりaggrecanの遺伝子発現量は増加したが,Mohawkの遺伝子発現量に有意な変化は認められなかった. ③ In vivo実験として,アキレス腱損傷モデルマウスにヒアルロン酸もしくはvehicleを局所投与し,異所性骨化をμCT検査により定量的に評価した.ヒアルロン酸投与群ではvehicle投与群に比べ異所性骨化の体積が有意に小さかった. ④ アキレス腱損傷モデルマウスにヒアルロン酸合成阻害剤4-MUを腹腔内投与したところ,vehicle投与群に比べ異所性骨化の体積が有意に大きかった. これらの結果から,高分子ヒアルロン酸は腱損傷部に誘導される間葉系幹細胞の軟骨分化を抑制し,腱損傷部の軟骨化生や異所性骨化を抑制することが示唆される.
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