研究実績の概要 |
発生過程の腱・靱帯付着部の形成には転写因子のScleraxis(Scx)とSRY-box9(Sox9)を共発現する細胞が前駆細胞としての重要な役割を担っていることが示されている。また,成体の腱板付着部損傷後の修復過程においてScx+/Sox9+細胞が限定的に関わっている可能性を示唆させる先行研究結果を得ている。本研究では,Scx+/Sox9+細胞と線維軟骨修復との関連を明らかにするため,修復能の異なる幼若マウスと成熟マウスの修復過程におけるScx+/Sox9+細胞の局在とFGF,TGF,BMP,ヘッジホッグ(Hh)シグナルによる制御,修復組織形態について評価した。その結果,幼若マウス(3週齢)では損傷後4週の損傷部骨表面に線維軟骨組織が形成された。また,損傷後3日の上腕骨損傷部近傍に少数のScx+/Sox9+細胞がみられ,損傷後1-2週には修復組織内に広く分布し,損傷後4週では線維軟骨表層への局在が確認された。シグナル伝達因子の評価では,損傷後3日から4週にかけて修復組織中に広く分布するpSmad3陽性細胞を多数認めた一方で, pMAPK,pSmad1/5の発現は少数であった。最終年度ではHhシグナルの関与についてシグナル伝達因子Gli1の発現を評価した。Gli1+細胞は損傷後1-2週をピークとして修復部の骨表層に局在しその数は幼若マウスで成熟マウスより多かった。修復部でのGli1+細胞とScx+/Sox9+細胞の局在とは一致していなかった。発生期の腱付着部形成過程におけるScx+/Sox9+細胞の局在の推移と本結果は類似していることから,Scx+/Sox9+細胞は線維軟骨の損傷後の修復過程においても前駆細胞のような役割を担っており,TGFシグナルにより制御されている可能性が示唆された。本成果は新たな腱板修復促進治療の確立につながる知見となることが期待される。
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