研究課題/領域番号 |
18K16631
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研究機関 | 奈良県立医科大学 |
研究代表者 |
稲垣 有佐 奈良県立医科大学, 医学部, 助教 (60707529)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 変形性膝関節症 / 間葉系幹細胞 / iPS細胞 / 骨分化 / 酸素濃度 |
研究実績の概要 |
変形性膝関節症は、関節軟骨を中心とした関節組織の変性により、膝関節の疼痛、可動域制限といった症状が出現する疾患である。変形性膝関節症の組織学的特徴として、骨代謝亢進の結果、骨硬化・骨棘といった過剰な骨形成があげられ、多くの報告がされてきたが、その詳細な機序はまだまだ不明な点がある。研究代表者らは骨再生医療研究において、低酸素環境にて培養されたのラット骨髄間葉系幹細胞が通常酸素環境に暴露されるとその骨形成能が大きく促進され、将来の骨再生医療への応用が期待できることを報告した。本研究の目的は、ヒト間葉系幹細胞を用いて、低酸素環境から通常酸素環境への変化時のHypoxia inducible factors: HIFs等を中心とした分子レベルの機序を通して変形性膝関節症の病態解明をおこなうことである。当初、本研究に使用する細胞として、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞を予定していたが、昨今の急速なiPS細胞研究の基盤整備を鑑み、実験対象細胞をiPS細胞に変更した。 ヒトiPS細胞を細胞外基質タンパク質コーティング培養皿でコンフルーエントに達するまでiPS細胞用培地で培養し、過去の文献をもとに骨分化誘導実験を行った。骨分化誘導を行わない群をコントロール群とし、骨分化の評価を形態観察、アルカリフォスファターゼ染色、遺伝子発現等で行った。形態観察において、骨分化誘導群では細胞外基質の産生・ハイドロキシアパタイトの沈着を認め、アルカリフォスファターゼ染色陽性であった。また骨分化関連遺伝子の発現亢進を認めた。本研究において、適切な骨分化誘導培養を行うことにより、通常酸素環境でヒトiPS細胞よりの骨形成が確認できた。今後当初の予定通り、酸素環境を調節し、ヒトiPS細胞骨分化能に対する酸素濃度の検証を行っていく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
申請時、変形性膝関節症の病態解明をめざす本研究に使用する細胞として、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞を予定していたが、その増殖能から効率的な実験遂行を、また充実したリソースから実験対象細胞をiPS細胞に変更した。 ヒトiPS細胞を過去の文献をもとに通常酸素環境下で骨分化誘導実験を行った。骨分化の評価を形態観察、アルカリフォスファターゼ染色、遺伝子発現等で行った。形態観察において、骨分化誘導群では細胞外基質の産生・ハイドロキシアパタイトの沈着を認め、アルカリフォスファターゼ染色陽性であった。骨分化関連の遺伝子発現解析において、当初十分な量と質のリボ核酸の抽出ができず、骨分化培養の反復や、リボ核酸抽出条件を検討などを必要したため、進捗状況はやや遅れている状態となっている。
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今後の研究の推進方策 |
本研究において、適切な骨分化誘導培養を行うことにより、通常酸素環境でヒトiPS細胞よりの骨形成が確認できた。また既に低酸素培養器は購入設置済であり、今後当初の予定通り、酸素環境を調節し、ヒトiPS細胞骨分化能に対する酸素濃度の影響を、骨分化および酸素環境応答関連遺伝子発現を通して、解析する。さらに選定した骨分化および酸素環境応答関連遺伝子をCRISPR-Cas9系などで遺伝子発現制御し、上記実験系にて骨分化にどのように影響を与えるかを検討する。また人工膝関節置換術時に同意の上採取した軟骨下骨組織を組織学的評価のうえ、上記、in vitro実験系にて選定した分子について免疫組織学的染色を行ない、変形性膝関節症の病態に関与しているかを検討していく予定である。
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