変形性膝関節症の組織学的特徴として、骨代謝亢進の結果、骨硬化・骨棘といった過剰な骨形成があげられ、多くの報告がされてきたが、その詳細な機序はまだまだ不明な点がある。研究代表者らは低酸素環境にて培養されたのラット骨髄間葉系幹細胞が通常酸素環境に暴露されるとその骨形成能が大きく促進されることを報告した。 本研究の目的は、幹細胞を用いて、低酸素環境から通常酸素環境への変化時Hypoxia inducible factors: HIFs等を中心とした分子レベルの機序を通して変形性膝関節症の病態解明をおこなうことである。当初、本研究に使用する幹細胞として、ヒト胚性幹細胞、ヒト間葉系幹細胞を予定していたが、昨今の急速なiPS細胞研究の基盤整備を鑑み、実験対象細胞をヒトiPS細胞に変更した。 過去のES細胞骨分化誘導に関する文献をもとにiPS細胞骨分化誘導実験を行った。骨分化誘導を行わない群をコントロール群とし、骨分化の評価を形態観察、Alkaline Phosphatase: ALP染色、遺伝子発現等で行った。形態観察において、骨分化誘導群では細胞外基質の産生・ハイドロキシアパタイトの沈着を認め、ALP染色陽性であった。また骨分化関連遺伝子の発現亢進を認め、適切な骨分化誘導培養を行うことにより、通常酸素環境でヒトiPS細胞よりの骨形成が確認できた。幹細胞性および骨分化に関する遺伝子発現評価にあたりQuantitative polymerase chain reaction: qPCRのインターナルコントロール遺伝子として設定が重要であり、各候補遺伝子から解析ソフトにて、TATA box binding protein(TBP)が本実験系における最適な遺伝子と決定し、英文誌報告した。上記結果をもとに酸素環境を調節し、ヒトiPS細胞骨分化能に対する酸素濃度の検証を継続している。
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