肩腱板断裂患者の治療では腱板修復を行うが、大断裂(3から5cm)、広範囲断裂(5cm以上)においては腱板の修復が困難な場合も多く、しばしば治療に難渋する。当教室の三幡らは修復困難な腱板断裂に対する新しい治療として大腿筋膜グラフトを用いた上方関節包再建術(SCR)を考案し、これまでに臨床研究および生体力学的研究においてその有用性が報告されてきた。本研究では家兎腱板断裂モデルを用いてSCR術後の継時的な組織学的修復過程を調査した。 令和元年度に日本白色家兎27羽に対して両肩に修復困難な棘上筋腱断裂を作成し、その4週間後に片側のみに自家大腿筋膜グラフトを用いてSCRを行なった。術後2、4、8、12、16週で屠殺して肩関節を採取し、固定、脱灰後にパラフィン包埋を行った。令和2年度は組織染色を行い、大腿筋膜グラフトの骨縫着部においては、上腕骨側、肩甲骨側ともに継時的に軟骨細胞の数が増加し、II型コラーゲンからなる線維軟骨が形成されること、術後16週では非石灰化線維軟骨層、tidemark、石灰化線維軟骨層を介して骨組織へと連続するdirect insertionの形成を認めることを明らかにした。また、グラフト実質部においては線維芽細胞と膠原線維の配列が継時的に長軸方向に沿って配列し、腱/靭帯様組織へとリモデリングされること、実質部の膠原線維においては継時的にIII型コラーゲンが減少し、I型コラーゲンが増加することを明らかにした。 この結果を英文誌に投稿し採択された(J Shoulder Elbow Surg. 2021 Oct;30(10):2247-2259. ) また、研究成果を令和3年の国際関節鏡・膝関節・整形外科スポーツ医学会、日本整形外科学会総会、日本整形外科学会基礎学術集会、日本肩関節学会などで発表し、令和3年の日本肩関節学会においてBest abstract賞を受賞した。さらに、令和4年の第5回SCR研究会、令和5年のKorean Shoulder and Elbow Society metingでも研究成果を発表した。
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