研究課題/領域番号 |
18K16638
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研究機関 | 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター) |
研究代表者 |
津野 宏隆 独立行政法人国立病院機構(相模原病院臨床研究センター), リウマチ性疾患研究室, 医師 (90792135)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | 変形性関節症 / 痛み / 関節リウマチ / エキソソーム / miRNA |
研究実績の概要 |
変形性関節症(osteoarthritis, 以下OA)については多くの疫学研究によって滑膜の変化と痛みなどの症状、さらに軟骨の変性・消失の進行が密接に関連していることが示されている。この知見に基づけば、滑膜において痛みを生じるような変化が生じると、その際に何らかの因子が産生され、その因子が関節液を介して軟骨基質の変性・消失を引き起こしている可能性が考えられる。本研究の目的は関節液中に存在するエクソソームに着目し、進行が認められる膝OA(Progressive OA、以下P-OA)、進行が認められない膝OA(Non-progressive OA、以下NP-OA)、膝関節リウマチ(rheumatoid arthritis、以下RA)の3群について関節液中のエクソソームを比較解析することでOAにおける軟骨変性および疼痛発現のメカニズムを明らかにすることである。本研究では関節液中に存在しているエクソソームに含まれているmiRNAについて病態に関与している可能性の高いmiRNA(候補miRNA)を見出す。見出された候補miRNAについてin vivoに近い条件で実験を行い、その因子が軟骨細胞の挙動に及ぼす影響を検討する。初年度には膝OAについて確立された質問票であるWestern Ontario and McMaster Universities Osteoarthritis Index(WOMAC)により臨床症状を評価し、さらに経時的に撮影されたレントゲンやMRIといった画像データをもとに選別されたOA症例から採取されたP-OA、NP-OAの関節液とRA症例から採取された関節液からexosomeを分離、miRNAを抽出して検体間の比較解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究初年度の平成30年度は関節液検体の選択とmiRNAの解析について予備的な検討を行った。OA関節液は外来において保存的に治療された膝OAの症例16例において疼痛の強い時期(P-OA)とその後に疼痛が軽快した時期(NP-OA)の2時点で同一の膝関節より採取された関節液16組、合計32検体を解析に用い、RAは人工関節置換術の際に16症例16関節から採取された関節液を採取した。P-OA、NP-OAを採取した症例は、該当する膝関節について①WOMACの痛みのスコアが12点以上改善、②P-OAを採取した時点の前後6-10カ月の間に単純レントゲン上、関節裂隙の狭小化が1㎜以上進行、③MRIでBone Marrow Lesion の関与がない、の3つの基準をいずれも満たすものとした。RAについては血液検査などから関節リウマチの診断が確定している症例で、かつ、滑膜組織の病理所見により疾患活動性が高いと判断された症例を対象とした。 各症例から採取した関節液よりexosomeを分離し、得られたexosomeからmiRNAを抽出した。当初、研究初年度において外部委託によるLC-MS/MSを用いてexosomeに含まれるタンパクを同定する予定であったが、予算的にLC-MS/MSを用いたタンパク同定は困難と判断されたため計画を修正し、研究初年度には予備検討を行った後、上述の基準をみたすOA症例より関節液を採取しエクソソームの回収とmiRNAの抽出を行った。今後、第二年度においてmiRNAについて半網羅的な定量解析を行い、OAの痛みに関与していると思われるmiRNAを特定していく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
研究二年目となる令和1年度にはPCRパネル(miScript miRNA PCR Array、Qiagen社)を用いて疼痛に関与しうる主要なmiRNAについて半網羅的な定量解析を行い、その結果からOAの痛みに関与しうるmiRNAの候補(以下、候補miRNA)を検索する予定である。PCRパネルを用いた解析では、解析されるmiRNAの数は限られるが、一度の解析で多数のmiRNAについて発現レベルの定量的なデータが得られる利点がある。PCRパネルの解析結果から種々のmiRNAについてP-OA、NP-OA、RAの3群間で発現レベル(厳密には関節内の濃度)の比較を行って候補miRNAを選択する。この選択には文献情報のほか公開されたデータベースの情報などmiRNAに関する既知の情報がフルに活用される。 臨床的には滑膜病変が痛みの発生とOAの進行、すなわち軟骨基質の変性・消失に密接に関連していることは先に述べたとおりである。そこで本研究では候補miRNAの選択ののち、軟骨変性が候補miRNAにより実際に誘導されるかの検証を行う。具体的には人工関節置換術を行った末期OA患者において肉眼的な非変性部から軟骨を採取し、この軟骨を組織培養により維持し、一方の培養液中にLNAを導入して合成した候補miRNAと同配列のオリゴヌクレオチドを、他方にはコントロール・オリゴヌクレオチドを添加する。添加から72時間で軟骨組織を回収、RNAを抽出して2群間でタンパク分解酵素の発現レベルに差がみられるかを検討する。 また候補miRNAと痛みの関連についても、滑膜組織から単離した滑膜細胞を単層培養として維持し、それにLNA化した因子を投与してNGFなどOAの痛みに関連することが知られている遺伝子の発現レベルの変化を調べる。
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次年度使用額が生じた理由 |
今までに述べたように研究初年度では関節液の収集と関節液からのエクソソームの回収、miRNAの抽出と解析について基本的な実験手法を確立しただけであり、miRNAに関する本格的な解析は研究第二年度以降に予定される。このため研究第二年度にはmiRNAの半網羅的・定量的な解析に必要なPCRパネルおよびそれに関連した試薬類の購入のために研究経費を必要とする予定である。研究第二年度にはPCRパネルの解析結果をもとに疼痛に関与するmiRNAの候補を絞り込んだうえで、それらのmiRNAが軟骨細胞や滑膜細胞にどのような影響を与えるかについての検討を行う。この検討においてはLNA化されたオリゴRNAの合成の費用、滑膜細胞の単離・培養や軟骨組織の培養のための培地、試薬類、滑膜細胞や軟骨組織からRNAを抽出するための試薬類、qPCR解析のためのプライマーや試薬類の購入に研究経費を必要とする予定である。
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