<背景>骨肉腫は若年層で最多の骨腫瘍である。予後を規定している肺転移に有効な治療法が確立されていないため、骨肉腫患者の予後はこの30年間大きな改善が見られない。がん周囲環境はがん細胞自身よりも多様性に乏しく、抗腫瘍免疫や腫瘍血管新生などは有用な治療標的と期待されている。さらに、がんの悪性化に対してがん周囲環境自体は、遺伝子変異など細胞要因と同等の影響力を持つことが明らかになっている。本研究では、骨肉腫の肺転移における転移巣の線維化(=がん周囲環境の硬化)の転移促進作用と治療標的としての可能性を、in vivo、in vitroの実験で検証した。 <結果>臨床サンプルとマウス骨肉腫肺転移モデルを使用し、骨肉腫の肺転移に伴い肺線維芽細胞が活性化し、肺線維化が進行することを確認した。また骨肉腫細胞の分泌因子によって、肺線維芽細胞が活性化することが分かった。ブレオマイシン肺線維化モデルとマウス骨肉腫肺転移モデルを組み合わせて、肺線維化が骨肉腫の肺転移を促進することも確認した。肺組織の軟らかさを模したポリアクリルアミドゲル培養系では、軟らかい環境で骨肉腫細胞の増殖は線維量に依存した。この線維量依存性は硬い環境では失われた。骨肉腫細胞は軟らかい環境で線維量の増加に従い平坦から球状へと形態を変化させ、いずれの形態においてもIntegrin b1機能阻害抗体で増殖の一部は阻害された。線維化抑制剤であるピルフェニドン、ニンテダニブいずれも、マウス骨肉腫肺転移モデルにおいて有意に肺転移を抑制した。骨肉腫細胞は、乳がんで認められる軟らかい環境への適応現象を認めなかった。 <考察>乳がんなどで線維化抑制剤は転移抑制効果が否定されているが、軟らかい環境への適応性が異なる骨肉腫のような腫瘍では線維化抑制剤が肺転移抑制に有用である可能性がある。
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