初年度、脊髄前角細胞に対するノルアドレナリンの作用機序を電気生理学的実験にて調査し、NAはα1、β受容体を介して興奮性シナプス伝達を活性化することを明らかにした。本年度も引き続き、脊髄横断スライスの前角細胞に対しパッチクランプ記録を行い、抑制性シナプス伝達について調査した。NAは抑制性シナプス後電流(IPSC)の頻度(コントロール比238%)と振幅(266%)を増加させた(p<0.05)。この抑制性シナプス伝達の活性化はGABA作動性とグリシン作動性のシナプス伝達の両者に生じた。選択的受容体アゴニストによるIPSCの頻度・振幅の増加作用と、アンタゴニストによるNA作用の遮断効果の結果より、抑制性シナプス伝達の活性化はα1受容体を介したものであった。 脊髄前角細胞に対しα1受容体刺激は、興奮性・抑制性シナプス伝達ともに亢進させるが、β受容体刺激は興奮性シナプス伝達のみ亢進に働くため調節しやすいと推察される。β受容体を介した興奮性シナプス伝達を活性化することにより脊髄損傷後回復期における神経回路網が賦活され神経機能回復につながる可能性が示唆された。 脊髄損傷回復期におけるモノアミンの運動機能へ与える効果について、モデルラットを用いた行動実験を行うべく、脊髄損傷モデルラットの作成を行った。モデルラットの個体差を確認・調整しつつ、モノアミンとしてセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬を投与し、投与量・投与時期の検討をしている。本実験ではモデルラットの運動機能評価が主体になるが、その後に行う免疫組織学的実験の予備実験も行っている。
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