研究課題/領域番号 |
18K16664
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小松 哲郎 九州大学, 生体防御医学研究所, 特任助教 (70614824)
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研究期間 (年度) |
2018-04-01 – 2020-03-31
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キーワード | ヒストンバリアント / 骨格筋分化 / エピジェネティクス |
研究実績の概要 |
ヒストンバリアントH3.3は初期発生、分化における選択的遺伝子発現制御に不可欠な役割を担っている。近年、H3.3にアミノ酸配列の酷似した「H3.3サブバリアント」の存在が明らかとなった。中でもH3mm13は骨格筋幹細胞で発現することが示唆されたため、ノックアウト(KO)マウスを作成し骨格筋での機能解析を行なった。結果、KOマウスに形態上異常は見られず、また蛇毒を用いた筋再生実験においても野生型と比べ顕著な差は認められなかった。同様に、H3mm11といった他のH3.3サブバリアントのKOマウスも正常に出生することが明らかとなった。従って、これらH3.3サブバリアントは正常な発生、分化には必須でない可能性が示唆された。一方で、H3.3との高い配列類似性から、H3.3とサブバリアントでは互いを機能的に相補している可能性が考えられた。なお、H3.3サブバリアントにはH3mm13等とは異なり安定的にクロマチンに取り込まれないものも存在している。このうち、H3mm18を骨格筋芽細胞C2C12細胞に強制発現させたところ筋分化が抑制された。NIH3T3線維芽細胞にMyoDを強制発現させ骨格筋形質転換を誘導する系においてもH3mm18強制発現による筋分化抑制が観察された。また、生化学的解析から、H3mm18はH3.3特異的シャペロンであるDaxxと相互作用することが示唆された。以上のことから、H3mm18は自身はクロマチンに取り込まれないものの競合的にH3.3のクロマチンへの取り込みを阻害することで筋分化を負に制御する可能性が示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
予備検討ではH3mm13のKOマウスを用いた筋再生実験において再生能の低下が示唆されたが、筋横断面積や筋重量の測定といった詳細な解析を行なった結果、野生型と比較して顕著な差は認められなかった。同様に、CRISPR-Cas9システムを用いて骨格筋芽細胞C2C12細胞においてH3mm13のKO株を樹立したが、筋分化能に明確な差は見られなかった。従って、H3mm13は骨格筋の発生、分化には必須でない可能性が示唆された。そのため、H3mm11やH3mm13といった当初の解析対象以外のH3.3サブバリアントの機能についても解析を開始した。特にクロマチンに安定的に取り込まれないサブバリアントに着目し、C2C12細胞やNIH3T3細胞を用いて筋分化誘導実験を行なった。その結果、H3mm18の過剰発現が筋分化を阻害する可能性を見出した。RNA-seq解析から、H3mm18の過剰発現は筋分化誘導後の遺伝子発現を特異的に抑制する可能性が示唆された。また生化学的解析を進めた結果、H3mm18はH3.3特異的シャペロンであるDaxxと相互作用することが示唆された。以上のことから、H3mm18はシャペロンとの結合を介して競合的にH3.3のクロマチンへの取り込みを阻害する可能性が示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
H3mm11やH3mm13はH3.3と比較し2、3アミノ酸残基の違いのみを有しており、またH3.3と同様にクロマチンに安定的に取り込まれることが明らかとされている。そのため、KOマウスやKO細胞株において表現型が見られなかった原因として、H3.3が他のサブバリアントの機能を相補する可能性を考えた。このH3.3とサブバリアント間での機能相補性について検証するため、C2C12細胞やNIH3T3細胞を用いてH3.3のKO株の樹立およびsiRNAによるノックダウン(KD)実験を開始した。もし相互に機能相補性を有しているのであれば、H3.3のKO/KD細胞にH3mm11やH3mm13といったサブバリアントを発現させることでH3.3の機能をレスキューすることができるはずである。RNA-seqやChIP-seqにより、H3.3のKO/KDの遺伝子発現プロファイルやクロマチン構造への影響、そしてサブバリアントによる機能相補性について検討を行う。一方、H3mm18に関しては、培養細胞系を用いてH3mm18の過剰発現がクロマチン構造に及ぼす影響についてChIP-seq、ATAC-seq等により検討する。また、KOマウスを用いた筋再生実験についても実施予定であり、生理学的機能についても解析を行う。
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