我々は、ヒト生体において、腰痛と筋や椎間板などの関連について解析を行い、慢性腰痛患者では、多裂筋の筋細胞内脂肪(IMCL)が上昇していること、さらにIMCLが脊柱アライメントや腰痛の程度とも関連があることを明らかにした。 IMCLの上昇に伴う遊離脂肪酸の蓄積が脂肪細胞の肥大化を惹起し、アディポサイトカイン産生調節機構が破綻する。そしてTNFα、IL-6、MCP-1などの炎症惹起性アディポサイトカインの産生が亢進することで炎症が促進し、疼痛の慢性化につながるという仮説をたてた。初めに本研究で必要なことは、IMCLの上昇を示すモデルラットの作成することであった。これまでIMCLは、運動時にエネルギーとして利用され、運動時に低下することから、代謝と密接な関連があることが報告されている。以上より、尾部を懸垂することで後肢を非荷重状態とし筋萎縮や骨萎縮を惹起する尾部懸垂モデルラットがIMCLの上昇を惹起すると考え、を用いてIMCLを経時的に計測した。尾部懸垂2週後にIMCLの計測および疼痛関連の行動学的評価を行ったが、IMCLの明らかな上昇および行動学的な変化は認めなかった。その原因として、後肢は非荷重状態となるものの、自動運動が可能であったためと考え、尾部懸垂に後肢ギプス固定を併用し、完全な不動化を達成した状態で解析を行った。しかしながら、尾部懸垂+後肢ギプス固定2週後には、IMCLの有意な低下を認め、IMCLの上昇を反映するモデルを現時点では作成できていない。 我々の最終目標として、IMCLの上昇に伴う疼痛発生および運動等によるIMCLの低下に伴う疼痛改善を確認する必要がある。よって、筋脂肪変性を誘発するジストロフィンタンパク質欠損ラット等の使用は、運動による改善効果を検討できないことから、引き続き、IMCLの上昇モデルの探索を行っていく。
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