研究実績の概要 |
本年度は、昨年度から着手した小胞体PDZD8ミトコンドリア係留分子であるPDZD8について検討を行った。胃癌とその前がん病変についてPDZD8の発現を検討し、癌におけるPDZD8の役割について検討した。ミトコンドリアはその機能を維持するために,他のオルガネラと膜接触部位を介してコミュニケートしており,その一つとして,小胞体-ミトコンドリア膜接触領域(mitochondria-associated membrane, MAM)がある.我々は,MAM局在タンパク質である PDZD8に着目した。PDZD8機能は未解明であるが、小胞体-ミトコンドリア間の物質輸送を通してミトコンドリア機能の維持に深く関与していると考えている. ヒト胃癌細胞株(MKN74, TMK1)を用いてPDZD8の発現をノックダウンしたところ,ミトコンドリアROSの増加を伴う著明な増殖抑制と細胞死を認めた.また免疫染色にて,ヒトの胃癌72症例のうち,93%にPDZD8の過剰発現を認めた.PDZD8の発現度は病理学的進行度や組織学的異形度とは関連がなかったが,腸上皮化生(12症例)や胃腺腫(11例)ではPDZD8の過剰発現を認めなかった.これらの結果から,PDZD8がミトコンドリア機能の維持や細胞死抑制に関与しており,前がん病変から癌に進展する際に重要な役割を有することが示唆された。胃癌に対する分子標的治療における新たな標的分子となり得る可能性が示唆された.
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