本研究では、手関節部の手根管内滑膜の線維化が主な病態である特発性手根管症候群の発症機序について、エストロゲン/エストロゲンレセプターおよびTGF-βシグナルに着目して明らかにすることで、有効な治療法開発の糸口となる基盤的知見の確立を目指している。本年度は、閉経後特発性手根管症候群患者の手根管内滑膜から 線維芽細胞を採取後、エストラジオール添加群(10-4 M)とコントロール群におけるERαおよびβ、コラーゲン1(Col1)および3(Col3)の発現の相違を免疫蛍光染色および免疫組織化学染色で検討した。免疫蛍光染色では、コントロール群のCol1およびCol3陽性率は、20.3±2.9および47.2±11.7であった。一方、エストラジオール添加群のCol1およびCol3陽性率は、10.9±2.3および15.0±2.6であり、Col1およびCol3ともにエストラジオール添加により有意に陽性率は低下した(ともにP<0.05)。免疫組織化学染色におけるERαおよびERβ陽性率は、29.0±2.9%と22.4±4.8%であり、陽性率に有意差は認めなかった。Col1とCol3の染色面積は、31630±2440mm2と23841±1201mm2であり、Col1の染色面積が有意に大きかった(P<0.05)。ERαおよびERβ陽性率とCol1とCol3の染色面積の間に相関は認めなかった。 本結果よりエストラジオールは特発性手根管症候群患者の手根管内滑膜線維芽細胞に対して線維化抑制効果があることが明らかとなった。今後、エスロトゲン補充療法が特発性手根管症候群に対する新たな治療の選択肢の一つとして使用できる可能性がある。
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