有転移腎癌に対する治療は近年大幅に進歩しているが、免疫治療に効果を示さなくなった場合は分子標的薬が加療の中心となる。しかし、分子標的薬治療は予後の延長には寄与するものの、ほとんどは治療抵抗性となる。我々は、腎癌に対する新規治療標的を探索するため、ヒト腎癌細胞株ACHNを用いて、腎癌治療の標的分子の1つであるmTORの阻害剤に対する耐性腎癌細胞株を樹立し(ACHN/RR)、耐性化により発現が亢進している遺伝子を網羅的解析で探索した。結果、Ankrd1が発現亢進している遺伝子の1つであった。腎癌細胞株を用いてRT-qPCR法でAnkrd1の発現を確認したところ、非耐性株に比し耐性株でAnkrd1の発現が高いこと、ウェスタンブロット法で耐性株のAnkrd1が蛋白レベルでも亢進していることを確認した。 Ankrd1の機能解析を行なうため、ACHN/RRおよびヒト腎癌細胞株786Oについて、Ankrd1をsiRNA法を用いてknock downし、細胞増殖能をMTSアッセイ法で測定したところ、Ankrd1抑制細胞での細胞増殖抑制がみられた。また、Ankrd1 knock down細胞株において抗アポトーシス分子であるMCL1やBCL2などのBCL2ファミリー蛋白の発現抑制がみられた。 我々の共同研究者は神経系の細胞においてERK5経路の刺激がAnkrd1の発現を亢進することを示している。この知見から、腎癌細胞株のERK5をsiRNA法を用いてknock downしたところAnkrd1の発現は低下した。また、ERK5阻害剤SMD8-92を添加したところ、knock downの場合と同様にAnkrd1の発現低下とBCL2ファミリー蛋白の発現低下がみられた。 以上の知見から、ERK5/Ankrd1経路は腎癌に対する新たな薬物治療の標的となりうると考えられた。
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