本研究では微小乳頭型膀胱癌において、MUC1などの細胞接着因子と癌組織上の糖鎖発現が癌の浸潤や転移に与える影響の実験的検討を試みた。しかし、頻度の少ないバリアントであることや、コロナ禍における診療制限など様々な理由で新規の症例蓄積に難渋した。当初より平行して腎癌での検討を行っていたため、腎癌での検討を継続する方針とした。腎癌の手術標本を用い、細胞接着因子と糖鎖発現の関連性を検討した。解析した糖鎖はシアリルルイスx(sLeX)とその構造異性体であるシアリルルイスa(sLeA)である。これらはいずれも細胞接着因子であるE-selectinにリガンドとして結合する。 標本は淡明細胞型腎細胞癌に対して行われた根治的腎摘除術、腎部分切除術のホルマリン固定パラフィン包埋標本(全117例)を使用。まずsLeX/sLeAの発現を免疫染色にて解析した。抗体はsLeX/sLeAのいずれも認識するモノクローナル抗体HECA-452を使用。癌組織では発現強度に差はあるものの、腫瘍細胞の細胞膜に発現していた。次にsLeX/sLeAが結合するE-selectinとの結合能を、E-selectinとIgMのキメラ蛋白を用いてin situ biding assayで解析した。結果、全117例中、陰性70例、陽性47例であった。臨床病理学的情報と照らし合わせ、本キメラ蛋白陽性は深達度、血管浸潤、リンパ節転移の有無と有意に関連していた。E-selectinは血管内皮細胞に発現し、本来は白血球の内皮細胞への接着に関与する。本研究の結果は、腎細胞癌がsLeX/sLeAの発現と血管内皮細胞上のE-selectinへの結合を介して浸潤や転移をきたす可能性を示唆する。また、E-selectin-IgMキメラ蛋白を用いた評価法は淡明細胞型腎細胞癌の新たな予後予測因子となり得る。
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