研究課題
ヒト膀胱癌細胞株T24にルテオリンを暴露するとROSの産生が減少しチオレドキシン活性が上昇することに着目し、T24にルテオリンを暴露した後に、チオレドキシンの阻害剤であるPX-12を投与したところ、細胞増殖抑制効果がキャンセルされた。またルテオリン暴露にともなって抑制されたmTOR活性が、PX-12投与によってキャンセルされた。以上より、ルテオリンはチオレドキシンを介してmTOR活性の発現を変動させていることが証明された。T24にルテオリンを暴露した細胞とコントロールの細胞から抽出したRNAを用い、メッセンジャーRNAのマイクロアレイを行った。そこで得られた発現変動データをIPA(Ingenuity Pathway Analysis)を用いて、pathway解析を行った。いくつかのチオレドキシンに関わる遺伝子の変動を認めたが、一連のpathwayとして見いだすことは出来なかった。さらにT24にルテオリンを暴露した細胞とコントロールの細胞から抽出したタンパクを用い、mTORの活性の指標となるphosphorylated(p)-S6を中心とした、リン酸化プロテオミクス解析を行ったが、p-S6の上・下流のシグナル伝達経路を見いだすことができなかった。In vitro実験ではラット膀胱がん細胞株BC31皮下移植マウス、BBN膀胱発がんラット両者の系においてp-S6の発現レベルを免疫染色で検討したところ、ルテオリン投与群で有意にその発現が下がっていた。さらに昨年度に実施したルテオリン代謝物の測定では、血中または尿中ルテオリングルクロニド濃度と、免疫染色におけるp-S6発現レベルと強い負の相関を認めた (r=-0.52, -0.44 Peasonの相関係数)。以上よりルテオリンは、in vitro, in vivo共にmTOR活性抑制作用を有していることが証明された。
2: おおむね順調に進展している
In vitro実験では、ヒト膀胱癌細胞株T24にチオレドキシンの阻害剤であるPX-12を投与した実験系より、ルテオリンはチオレドキシンを介してmTOR活性の発現を変動させていることが証明された。さらにマイクロアレイとプロテインアレイを行ったが、in vitro実験で見出したチオレドキシンやmTORに関連する有意な遺伝子やリン酸化シグナルを検出することは出来なかった。チオレドキシンとmTORの関連以上のシグナルを解明することは出来なかったが、実験は予定通り遂行できている。またIn vitro実験をもとに、in vivo実験では2つの動物実験系において、ルテオリン投与群のp-S6の発現低下を確認することもできた。今後は今まで得られたデータをもとにヒト膀胱がん検体での検証を行う予定である。
昨年より蓄積している膀胱がん症例の手術検体を用い、mTOR活性の指標となるp-S6やチオレドキシンの免疫染色を行う予定である。そして画像ソフトを用いてその発現レベルを定量化し、予後との相関を検討する。また公共のデータベースも同時に用いて検証を行う予定である。またin vitro実験で発現差を認めた細胞周期関連タンパクであるp21は膀胱がんにおいて癌抑制遺伝子として報告されており、その上流にあるp53は膀胱がんで最も変異の頻度が高いと報告されている。T24と5637はp53変異株であるので、p53野生株であるRT4においてp21の発現亢進作用があるかどうかを検証する。そしてこのp21発現亢進作用がp53発現によるものかどうかを、p53のsiRNAを用いたノックアウト実験で検証する。in vivo実験においても、BBN膀胱発がんラットのパラフィン切片からDNAを抽出し、DNA sequenceを行うことでp53の変異の頻度を検討する。
試薬や動物を無駄なく発注した結果、当初予算より若干節約ができた。次年度(最終年度)使用金額として、よりよい結果を残していきたい。
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Asian Pacific Journal of Cancer Prevention
巻: 20 ページ: 2995-3000
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Journal of Clinical Medicine
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